インサイダー

というわけでまずは『インサイダー』から。3時間近いが、飽きずに見入ってしまった。こういう映画を作れるところが、アメリカの映画業界が単なる娯楽産業にとどまらない所以なのだろう。そのための方法論が芸術としての映画ではなく、ジャーナリズムとしての映画であるあたりが実にアメリカらしい。映画の筋も善悪の2元構造だったりするし。
バーグマン、ワイガントを初め、登場する様々な人物の葛藤が前面に押し出され、それが克明に描かれている。家族の離散、組織の理屈に屈せざるを得ない状況が、その葛藤に説得力を与えているといえるだろう。
経済の発展はその過程で組織の必然に結実していったわけだが、組織をなすのは当然のことながら個人である。個人と彼の属する組織との利害に対立が発生したとき、人はどう動くのか。経済はいまだ膨張を続け、巨大企業がますます大きな力を持つにいたっている。タバコ企業のようなわかりやすい例は多くないが、それだけに問題は深刻になる可能性を秘めている。その中で個人はいかに尊厳を獲得し、かつ現実との折り合いをつけていかなければならないのだろうか。日本でも内部告発に関する法律の議論が始まったが、最終的には個々人が自らの内面において決着をつけなければならない問題であろう。20世紀の初めに労働運動を発露として起こった争いが、より深くより個に密接した形で再現されつつある。