ワンダの日記

ワンダと巨像」より。ネタバレを含む。

12体目

この間の砂漠を越えて先に進む。右手に巨像のいたでっかい穴が見える。光の柱があるかどうかは確認もしなかった。そんなもの見たところで腹の足しにもなりゃしねえんだから、トカゲの尻尾の方がまだマシってもんだ。
どれだけ走ったか、気がつくとデカい湖のほとりだった。少し離れたあたりに誰が作ったのか、ゴツい橋がかかっている。足下では滝のように水がほとばしり落ちる。見下ろせば水しぶきが煙みたいで、まるで天然のダムだ。とするとコイツは水門か?そう思っても確認する術はない。橋脚の向こう側にはまだ湖が続いているらしい。
イヤな予感がして剣をかざす。案の定、光は一直線に湖の向こう側を指し示した。こないだまで砂漠続きだと思っていたら今度は水かよ!前にも水攻めはあったが、その時だって寒くて死にそうになったもんだ。今が何月だと思ってやがる。
とはいえどれだけ喚いたところで俺には拒否権なんかない。せいぜいたっぷり準備運動をしてから飛び込む。やっぱり冷てえ!ほんの数分泳いだだけで全身チキンだ。きっと唇だって紫色になっちまったのに違いない。やっとの思いで途中の島まで泳ぎ着くと、遠くにもっとデカい3つの島が見えた。ほう?と思った瞬間例の地響きが。ようやく巨像のお出ましだ。
……ってデカ!周りにあるどの島よりもデカい。前回のがちんまかっただけに余計にそう思うのかもしれないが、こりゃちょっとした島だ。見た目は水牛のクセして生意気なヤツ。そいつがざんぶと水をかきわけながらこっちに向かって……立ち止まったな。なんだ?あ、ビリビリしてますよヤな予感。
ほらみろ今度は電撃だ!
なんとか湖に飛び込んで難を逃れる。ヤツの動きは大して早くないが、なにせこっちは泳ぎだ。どうにも分が悪いっつーか寒い!冷たい!温水プールでの対戦希望!水中に潜れば電撃はなんとかやりすごせるが、こいつはまた難儀だ。
しかし逃げてばかりいても始まらない。ここは一発、男は度胸。意を決して懐に飛び込むと、なにやら足下を抜けて背後に回り込めそうな予感!そらいけ!見よ男の必死クロール!
蹴飛ばされそうになりながらもなんとか背後に回り込む。と、水面に垂らされた尻尾から意外にあっさりと背中に登ることができた。寒い割にはいい眺めだ。呑気なことを考えながらデカい背中をあちこち見て回るが、弱点マークのカケラさえ見あたらなかった。どうなってんだ?試しに首筋のあたりを見繕って剣を突き立てようとしたが、固すぎてまったく刺さらずウデが痺れた。どんだけ角質化が進んでるんだか知らないが、お肌の手入れくらいちゃんとしとけ。
しかし……と冷静に考える。ってことはなんですか。俺登り損?それで倒せると思ってぬか喜びするサマはかなり間抜け?そう思うと無性にハラが立ってきた。くそ、妙なツノなんかはやしやがってエラそうに。叩き折らないまでも、せいぜいビビらせてやろうと一発ぶっ叩くことにする。
ごいん。うぉ、なんかいきなりな方向転換!バランスを崩して頭の上をごろごろ転げ回る。アブねえだろこの野郎!今度はかなり本気でムカついて力一杯叩く。ごいん。また方向転換。今度は毛に捕まって難を逃れるが、ふむ?試しにもう一度ごいん。ほう、前角を叩くとまっすぐ進みやがるね?
ははーん。どうやら角を叩くとそれに従って向きを変えるらしい。ちょっとした操縦ができるわけだ。こりゃ面白え。ごいん。ごいんごいん。うひゃひゃでけえ図体して俺の意のままに動きやがんの!おら進め!右!左!右と見せかけて左を叩こうとしたのはフェイントでやっぱり右かと思ったら前ですよ!
しばらく続けていたら飽きた。つーかよく考えたら俺はこいつに一撃も加えてませんよ?このままじゃどうにもならんな。壁に向かって突進させるのはどうかとも考えたが、別に顔面が弱点ってワケでもなさそうだ。しょうがねえ、いったん離れて観察すっか。うむ俺クレバー。
とりあえず湖は冷たくてヤだからあの四阿だな。オラ進め!近づいたところでひらりと屋根に飛び乗る。と、思った瞬間にまた電撃!アブねえ!このヤロ少しはインターバルよこせ……ておい、ちょっと待てまさか。ヤツはデカい図体を持ち上げてこっちめがけて前足を持ち上げた……と思うまもなく振り下ろす!ぎゃあ!踏みつぶされるよ!
あわてて四阿から飛び降りる。せっかく穴が開くほど観察してやろうと思ったのに……っておや?なにやらこの牛、ハラにも毛が生えてやがる。今までの戦いでクセになったのか、ついしがみついてしまった。イヤなクセだ……と思ったら発見!こんなところに弱点マーク発見!わしわしと近づくサマはなんだか虫になっちまったみたいだが、そんなことを言ってる場合じゃねえ。てりゃ!うははさすがにハラまでは角質化してねえな!
何度か刺すたびにヤツは身をふるう。ぶら下がっているのがハラなので、そうなると逆さまになっちまう。いくら俺の握力が超人的だからといっても限度が……ぼちゃん。渋々その都度背中を登り直してごいんごいんと同じことを繰り返す。なにやら地道だ。ヤツはチクチクやられるのがよほどハラに据えかねたのか、力任せに四阿を踏みつぶしたりした。乱暴なやつだ。
ま、そんな短腹じゃ俺に勝とうなんて百年早いね!