ワンダの日記

ワンダと巨像」より。ネタバレを含む。

13体目

空飛ぶなんてズルい!と思いつつアグロを駆って巨像の後を追う。異様に長ひょろいムカデの足を全部引っこ抜いてトンボの羽根を3対くっつけたようなヤツだ。あんなにょろにょろしたヤツが空を飛ぶなんて絶対に間違ってると思う。前にも空を飛ぶヤツはいたが、そいつはまだ鳥の格好をしてたから許せた。だがこいつはダメだ。俺はこいつを絶対に許さねえ!と固く心に誓う。
しかし誓ったところでヤツが落っこちてくれたりするわけじゃあない。くそ、弓が全然当たらねえだろうが!空を飛ぶなら飛ぶでいっそのことホバリングしちまえばいい。そうすれば狙うのも随分ラクになるってのに、中途半端に進化するくらいなら永遠にムカデのままでいりゃよかったんだ。都合良くアグロに羽根が生えて空を飛んだりしねえだろうかとも思ったが、そんなことは当然起こらなかった。まったく役にたたないヤツだ。
大体ドルミンもドルミンだ。ちょちょいと魔法でもなんでも使って俺を空が飛べるようにすりゃいいものを。エラそうにああだこうだ言うクセに、あいつは本当に俺の役にたつことをひとつでもしてくれたためしがない。「お前はひとりではない」なんてもったいこと言いやがったが、こんなヤツをなんとかしようと思ったらアグロに乗って追いかけなきゃいかんのはひと目見りゃわかるだろう。俺をそんなにバカだと思ってんのかあの野郎?いつか会えたら絶対ケリのひとつでも入れてやらなきゃ気がすまねえ!毒づきながら巨像の真下に入り込んで弓を射る。うっしゃ命中!ふくらんだ腹が破れてぶしゅーとか空気が漏れてやんの!ざまみろ!

最近は祠の北側に行くことが多かったのだが、今回は珍しく南へ向かうことになった。途中森を抜ける時に崖の上で実のなっている木を見つける。弓で打ち落とすとそのまま崖の下に落ちていってがっかりした。まあもう一つ残ってるからな、とポジティブに捉えてそっちも打ち落とす。また崖下の水辺にぼちゃん。
ふざけんじゃねえ!
ブチ切れて後先考えず崖から飛び降りる。そこで服が濡れるのもお構いなしで木の実を貪り食っていたら、どこをどうやって来たのかアグロが追いついてきた。あれ?もしかして普通に歩いてても着けたのか?
まあ時間の節約にはなったからな!それより木の実!ウマい!お前も食うか?とアグロに差し出したが、そっぽを向かれた。確かにもう皮しか残ってない。エコロな俺としては環境負荷を慮って全部食っちまうべきだと思ったんだが、まあアグロも食わないというならしかたがない。皮はその場に捨ててきた。今でもぷかぷかと水面に揺れているに違いない。
そんなこんなでたどり着いた先は砂漠と呼んだ方がよさそうな砂っ原だった。風が強くて砂煙がスゴい!ぶえっふ口ん中に入った!ああくそ風呂入りてえ!最近は水浴びしかしてねえから、国に帰ったら絶対ふやけるまで風呂につかってやるんだ!

しかしそれくらいじゃまだ甘かったってのを今になって思い知っている。腹を何カ所かぶち抜いてやると、巨像は高度を落とした。どういうわけか頭に近い部分の羽根を地面に引きずってもいる。あそこから飛び乗れそうだ!と思って意気揚々と近づいた瞬間、その羽根が巻き上げるものすごい量の砂を頭からかぶっちまった。口の中どころじゃない。髪の毛の隙間という隙間、目の中、服の中、挙げ句の果てには鼻の穴!全身砂まみれ!俺に砂浴びする趣味なんかねえ!ますますもってお前はゆるさん!走れアグロ!って追いかければ追いかけるだけ砂が!
なんとか羽根から巨像の背中に取り付いたときには頭の中は風呂でいっぱいになっていた。風呂!風呂!と叫びながら弱点マークをぐさぐさやる。きりもみして俺を振り落とそうったって無駄無駄無駄!今の俺には浴槽だって握りつぶすくらいの決意がみなぎってんだからな!
と思った瞬間、ヤツは砂の中に潜った。当然俺は放り出される。アグロが駆け寄ってきて俺の近くで急ブレーキ。また砂かぶり。
正直、その後どうやって巨像を倒したのかも覚えていない。多分腹を射抜いて羽根から飛び移る、ってコトを何度か繰り返したんだろう。どういうわけか砂から浮上したヤツはまた空を飛べるようになってたからな。しかしこいつを倒したからといって、一体なにがどうなるってんだろう?あの娘を蘇らせることができたからといって、どんな意味があるというのだろう?
なにもかもが虚しかった。こんな気持ちで巨像を刺し殺したのは初めてだ。
もう水浴びでもいいや。