Amazing Graceの秘密
Amazing Graceと言えばかなりの人がご存じであろう名曲なんだと思います。最近だと白血病で亡くなった本田美奈子.でおなじみってことになりますか。
この曲にまつわるエピソードもおそらくそこそこには知れ渡っているんじゃないかと想像します。作詞をしたジョン・ニュートンにまつわるものなんですが、奴隷商人であった彼がある事件をきっかけに敬虔なクリスチャンに変貌するというもの。Wikipediaのアメイジンググレイスの項にも掲載されているので転載すると
1748年5月10日、彼が22歳のとき、転機はやってきた。船長として任された船が嵐に遭い、非常に危険な状態に陥ったのである。今にも海に呑まれそうな船の中で、彼は必死に神に祈った。敬虔なクリスチャンの母を持ちながら、彼が心の底から神に祈ったのは、この時が初めてであったという。すると、船は奇跡的に嵐を脱し、難を逃れたのである。彼はこの日を、みずからの第二の誕生日と決めた。その後の16年間も、ジョンは奴隷を運び続けた。しかし、彼の船に乗った奴隷への待遇は飛躍的に改善され、家畜以下などではなく、人並みのものであったという。
とまあこんな感じ。溺れる者は神にも祈る。よくできたお話です。
ところがもうちょっと詳しくジョン・ニュートンその人のことを知りたいなあと思って英語版WikipediaのJohn Newtonの項を見てみると、これがちょっと趣が違う。どうも彼には人生の転機ってやつが二度あったらしいんですな。その段で言うと、嵐の航海は転機その1ってことになります。
で、くだんの航海から戻ったあと、同じ1748年にジョン(なれなれしい)はもう一度航海に出ます。目的はやっぱり奴隷貿易。懲りないなあ__と現代の視点から見てしまえばそれまでですけど、まあそこはそれ。そういう時代だったということなんでしょう。
そしてその航海でジョンをまたしても困難が襲います。運の悪いことおびただしいですが、今度はどうやら熱病にかかっちまったらしい。でもってまた神に祈るわけですよ。ヘルプミー!とかなんとか。
ここで死んでもらっちゃ話がそこで終わってAmazing Graceも生まれなくなるので、もちろんジョンはまたしても助かっちゃいます。めでたいことです。で、これが転機その2になるらしい。
彼は後年この事件に関して『this experience was the true conversion and the turning point in his search for God, and that he knew for the first time a total peace.』と述懐したそうです。テキトーに訳すと、これこそまさに神を求めるにあたっての本当のターニングポイントかつまことの平穏を知った最初の機会であった__ってとこですか。
いやー、そんな短期間に二回も神への祈りが通じれば、そりゃ人生の転機にもなるでしょうよ。心の平穏ってのも病開けの爽快感みたいなもんだったんじゃねーですか?
とまあ穿った見方をしてしまうわけですが、いずれにしたって転機は転機です。それが一回だったか二回だったのかはともかくとして、ジョンがAmazing Graceの作詞をしたことにはかわりがない。まあドラマチックさはやや減じるかもしれませんけど、それは仕方がないことでしょう。
と、ここで終わってもいいんですが、調べているうちにちょっとした疑問が残ってのでそれについて少し書いておきます。
日本語でもジョンのエピソードを紹介しているサイトがいくつかあるんですけど、いずれも嵐の航海に関するくだりのみでジョンがキリスト教の道に目覚めたことになってるんですな。「アメージンググレース 前編(ドナドナ研究室)」は非常に詳しくて参考になるんですが、こちらでも熱病のエピソードについては書かれてない。
なんだか謎です。日本に紹介される際に抜け落ちたのか、はたまた英語版Wikipediaが間違ってるのか。あるいは帝国の陰謀か。
このへんは正直言ってよくわかりません。調べりゃわかるのかもしれませんけど、あまり時間をかけるのもアレなのでこのへんでぶん投げてしまおうということです。ロクでもありませんな。まあこういう話もあるんだよってことで勘弁してやって下さい。
しかし、なんだかんだ言ってもここらのエピソードをちょっとでも知っていればAmazing Graceの歌詞をもう少し深く味わえるようになるだろうってのは確かです。和訳に関しては「アメイジング・グレイス物語」あたりがよいかと思います。よろしければどうぞ。(6月27日追記:せっかくなんで自分でも訳してみました)
あと、どうでもいいですが、私は本田美奈子.よりもヘイリーの歌い方の方が好きです。いずれもiTunesで買えるってんだから、実によい時代になったことであるなあ。
Amazing Grace和訳(私家版)
Amazing grace, how sweet the sound That sav'd a wretch like me! I once was lost, but now am found, Was blind, but now I see. |
輝き満つる恵みよ 其はいと妙なる響きか 我が汚れし身なりとも救い給う 迷いたる身にも今は眼差し注がれ 盲いたる目にも今は光溢るる |
'Twas grace that taught my heart to fear, And grace my fears reliev'd; How precious did that grace appear, The hour I first believ'd! |
畏れなるものを知らしめたる恵みよ 恐れなるものを祓いたる恵みよ いと貴きなるか 与えられしものよ 其は吾が祈りの 捧げそめにし下に |
Thro' many dangers, toils and snares, I have already come; 'Tis grace has brought me safe thus far, And grace will lead me home. |
数多なる艱難よ、幾多の迷導よ 吾が身を過ぎたる限りなきすべてのことどもよ 大いなる恵みよ すべてを彼方に隔たれしところへ 安らぎ満つる庵へ 我を導き給ひしものよ |
The Lord has promis'd good to me, His word my hope secures; He will my shield and portion be, As long as life endures. |
主は吾が安寧の契りとなり給ひぬ 御言は吾が道を照らす光となり給ひぬ 其は吾が糧となり 護りとなりて この灯火尽きるまでともにありぬ |
Yes, when this flesh and heart shall fail, And mortal life shall cease; I shall possess, within the veil, A life of joy and peace. |
血肉(けつにく)はやがて枯れゆき この生命(いのち)やがて天へと昇りゆかん さりながら吾はゆかん 御布に包まれしものと 共にありし安らぎと 生命の歓びとともに |
The earth shall soon dissolve like snow, The sun forbear to shine; But God, who call'd me here below, Will be forever mine. |
大地は陽光の雪が如くに溶けゆき 太陽はその輝きをもって瞑するべし されど主の吾をその下へ呼ばわる声はやまず 御身は永久(とこしえ)に吾とともにありぬ |
When we've been here ten thousand years... bright shining as the sun. We've no less days to sing God's praise... then when we've first begun. |
数多のときを経て人々はともにあり 陽光が如き輝きをもって降り注ぎゆく 賛美の歌を上げる能わざることなく 其ははじまりの日と違う(たがう)ことを知らず…… |