夏の気配

どうも今年はカラ梅雨なんじゃねえかという気がひとしきりしますけれども、あまりうかつなことをいうと後悔するハメになりそうにも思われます。どうなんでしょうねえ、今のところあまり降ってませんけどねえ、という程度に抑えておいた方が無難でしょう。多分。
東京に来てから、夏というものがずいぶんはっきりと意識されるようになりました。もちろんどこに住んでいようと夏がまったく存在しないなんてことはないんですけど、なんというんですか、東京の夏にはずいぶんと存在感があるように感じます。
以前住んでいたのは北海道は札幌で、そこでも夏だと実感する瞬間はもちろんありました。けれども東京での夏のように、打ちのめされる、という感覚はなかったですね。そうそう、東京ではまさしく夏に「打ちのめされる」という感じがするのです。たとえばちょっと涼みに入ったコーヒーショップから出た瞬間の、あのむあっとくる熱気とかに。
さらに時を遡ると、室蘭だとか釧路だとかそういう名前が出てきます。いずれも北海道です。特に釧路に関しては、ほとんど夏というものを意識しないままでいられる程度だったと記憶しています。あそこの夏ってのは四季の中でもっとも存在感のない、つけたりのようなものだったのです。一年の半分は冬で、その合間に春と秋があり、時折なにかの間違いのように夏みたいな日がある。
そんなところはむしろ少数なんだろうとは思います。日本人にとっては、夏に存在感を感じないという方がむしろ珍しいんでしょう。ただ、東京は東京で照り返しだとかヒートアイランドだとかで、ちょっと特殊な面はあるんでしょうけどね。ずいぶんたくさんの人がそこで生活しているせいで、その特殊性はあまり顧みられていない気がしますけど、それでも打ち水とかやる方もいたりして結構なことではあります。
空の青さがどんどん濃くなっていって、雲もずいぶん輪郭がはっきりしてきます。同じ日本のはずなのに、夏というもののありようがずいぶん違う。どうでもいい話ですな。でも今まで自分がまったく知らなかった夏が、きっと無数にあるんだろうなあと思われるのです。そしてそれを当たり前だと思っている人たちもきっとたくさんいるんでしょう。
いつかそういう世界のどこかを訪れてみることもあるんでしょうか。多分、ほとんどの場所に関してはないんだと思います。それは残念なことではあるけれども仕方のないことで、そうではありながらも知らない夏のことをときどき考えてみることが必要なわけです。どの夏がよいか、という質問には意味がないけれども、どういう夏が好きか、という話なら面白そうですね。