ショートショートとか。

久々に書いてみたり。

叩かれるヒト

「あんたなんか大っ嫌いッ!」
 雑踏のひしめく繁華街の中を切り裂く叫び声。その直後に乾いた炸裂音が響き渡り、道行く人々もなにごとかと足を止めた。トオルは好奇にあふれた視線を全身に受けながらしびれる頬に左手をあてる。こんなことにはもう慣れっこだ。無造作なしぐさで道端の花壇に腰をおろすと、耳にぶらさげたピアスがぶつかりあってかちゃりと鳴った。
 いい加減くたびれたジーンズのポケットをまさぐると何枚かの紙幣が手に触れる。財布は持たない主義だ。通り過ぎるうちの幾人かが、こちらをちらちら見てはそのたびごとに小さな笑い声を立てている。それもそれほど待たない内に減り、あとには頬の熱さだけが残った。

__それにしてもなあ。

ペットボトルから烏龍茶をあおると、背だけが高いビルが都会の空を四角く切り取っているのが目に入る。なんか最近攻撃的なヤツが多いよ。どうなってんだか。世の中がどうなっていようが大して気にもならないのだが、とりあえずそんなふうに言ってみれば格好がつくくらいのことは知っている。足元に転がっている段ボールを軽く小突く靴は、都会ではほとんど無用の長物であるトレッキングブーツだった。
 さっきの女はそんなに悪くなかった。肩口くらいまで伸びた髪を軽く外に散らした髪型はトオルの好みに合っていたし、勝気そうな目もなかなかのものだ。化粧っ気が強すぎないのもポイントが高い。なによりも中途半端にこちらに情けをかけず、思いっきり罵倒した挙句にぶったたかれた方がいいというものだ。さて、次はどんなヤツが引っかかってくるかな__。

腰をかがめて裏返しになっていた段ボールを花壇に立てかける。そこには黒マジックの下手な字で、

あなたのストレス解消します!
憎たらしいヤツが目の前にいると思って
悪口、ビンタなんでもOK!

1回1,000円!!!

凶器はカンベン

と書いてあった。

料金は前払い。激昂した挙句に金を払わずに帰ってしまう客が結構いたからだ。