ITはヒトを幸せにしないか

仕事はじめの日にいきなり飲み会でした。私は烏龍茶ばっかり飲んでたわけですが。

で、その中でちょっと引っかかることを言っている御仁がおられる。なんでも「職場でPCが一人一台になってから仕事が増えた」んだそうです。私が就職したときにはすでにPCが一人一台体制になっていたので「ふーん」としか言えないんですが、実のところ職場内でよく聞く話だったりしてちょっと気になります。

でもこの話をしようと思えば、私のいる職場__とある官庁の地方出先機関__でどれだけPCが活用されているかを考えなきゃならない。

なんのかんのいって、事務仕事ってのはまだまだ書類が主役の仕事となっているのがわが職場の現状です。ペーパーレスと声高に叫んでPDFを使ってみても、それを印刷して閲覧するような人は少なくありません。業務のシステム化もごく一部の『パワーユーザー』が行っている程度で、まだまだ旧態依然としているところが多い。結局一番使われているアプリケーションはメーラとワープロって感じですね。

いまどきITって言葉を使うのもなにやら気恥ずかしいですが、これでPCをどれだけ活用しているかというと少々心もとない感じです。でもって、印刷した書類にハンコをもらうためには結局あちこち駆けずり回らなきゃいけない。これのどこが『情報技術』なのやら(涙)。一応電子決済システムなるものも導入されるらしいんですが、回線が貧弱なのがサーバがヘボいのか一つの文書を開くのにヒドいときは1分近く待たされるせいで誰も使いたがりません。というかそんなシステムは私も使いたくありません(泣)。

その一方で職員数がどんどん減ってます。聞くところによると最盛期に比べるとすでに50人は減ってるらしい。現行では200人ちょいってとこですが、今後数年でいわゆる「団塊」の方々がいよいよ定年を迎える。それに対して新卒者の採用が増えたりすることはないのでまた人が減ります。将来的には200人を切るそうです。

にもかかわらず仕事の量ってのは減ってません。『小さい政府』なんてのは全然実行されてないんですな。つまるところ一人あたりに課せられる仕事量は増加するわけです。どうも役人ってのは仕事を減らしたがらないものらしい。仕事を手放す=権力を手放す、という図式でも頭にちらつくんでしょうか。このへんは官庁間の縄張り争いがいまだに色濃く残ってるんだなぁって感じでげんなりなわけですが。とはいうものの私だって同じ穴のムジナなんであんまり威張れたもんじゃない。

それはともかくとして、結局一人あたりの仕事量が増えたってのは別にPCが導入されたからじゃなくて、人が減ったのに仕事が減ってないからなんじゃないか、ということになります。で、それだけだと負担が増えるだけになっちまうので、それを回避するために業務の効率化をしよう。効率化のためにはPCを使おうって流れになったんですね。

ここでPCの導入と一人あたりの業務量が増える時期が一致する。

にもかかわらずPCを活用した業務の効率化はあまりウマくいっていないわけです。ワープロで書類を作る時間が短縮され、メールで連絡の手間が軽減されたというのは結構目立つ効果なんですが、それで実働時間がどれだけ減ったかっていうと実はたいしたことないんですな。ハンコをもらうために駈けずりまわり、配布資料を読み上げるだけの会議はなくならない。出したメールにはなかなか返事が来ないってんだから当たり前です。さらには昨年のデータを調べようと思ったらキャビネットから紙ファイルを引っ張り出さねばならず、そこから数値をはじき出すためには電卓を叩く必要がある。全然PCを使ってる意味がねえ!

しまいには役所特有である2年ごとの人事異動で知識に断層が生じるわけです。ナレッジマネジメントなんかどこを吹いてる風の話なのか。

ここで「PCが導入されてから仕事が増えた」って話に戻りましょう。これは先ほども言ったようにPCの導入と一人あたりの仕事量が増えたことのタイミングが重なっているがゆえの誤解であると私は思います。そのタイミングってのは重なるべくして重なってるわけですが、そこに誤解が生じる原因もある。PCが一人一台体制になるってのは結構劇的な話だから目立つ。仕事量が増えるってのは実感を伴ってるのでこれまた目立ちます。酒の積での愚痴にはぴったりな話ですからね。

その一方で人員の削減ってのは実はあんまり目立ちません。退職者の人数と新人の人数を比べる人はそんなにいませんし、機構改革という名のもとに課の名前がかわったりくっついたり離れたりしているので人が増えてるのか減ってるのかさっぱりわからんのですな。人間以外に近視なもんで、自分の課の人が減らない限りはあんまり気にしないものらしいです。

そうして「PCの導入」と「仕事量の増加」が見事原因と結果の座に収まることとなったのではないか。かように思うわけであります。ここには因果関係と相関関係の混同がある。これは結構陥りやすい罠なので気をつけなければなりません。

とはいうものの、「PCの導入」にまったく問題がなかったというわけでもないんですな。なんたってちゃんと活用できてないんだから。業務の効率化という命題を背負いつつもまるでなっちゃいないという点で、職員の負担増の片棒を担いでしまったとさえ言える。ここには「IT化=PCの導入→業務効率化」という単純すぎる図式を描いてしまったというもうひとつの誤解が存在しています。たしかにPCの導入ってのはIT化の第一歩には違いないんですが、そこから先のことをまるで考えていなかったのは大きな過ちですな。

今現在システム部隊の一員として働いている私はこれをちゃんと受け止めて反省しなきゃいかんのだと思います。少なくとも一番使用されるアプリケーションは業務のシステムであるべきで、ワープロじゃないってことは覚えといたほうがよさそうだ。

で、現状を打破するには、システム化は至上命題だと言えるでしょう。私はあんまりプログラムを組むのは得意じゃないですが、それでも業務の中に潜むシステム化のための要素を掘り出すことくらいはできる。つーか本来はそれができる人材を一人でも多く作っていくために動くってのが本筋なんでしょうけどね。でもまずは自らもって示すところからはじめなきゃいかんかなぁ、と感じた次第です。今年の目標にはちょうどよいかもね。

しかし、そうするとユーザーから寄せられるわけのわからん質問に愚痴をこぼしてるヒマはないってことか?それはなんかちょっと困るな(苦笑)。