社会見学

名古屋勉強会のオプショナルツアーだそうで、講師の方などにくっついて半田まで行く。名古屋駅から名鉄ないしJRで大府駅へ。そこでJR武豊線半田駅までおよそ30〜40分ほど。武豊線は見事なまでのローカル線であるが、競馬で武豊フィーバーが起こった際には随分看板が盗まれたそうだ。なにが起こるかさっぱりわからん世の中である。

中埜酒造

{{image_right 1,'中埜酒造の看板。酒造メーカーの名前よりも、國盛というブランド名のほうが有名だろう。'}}ともあれ半田の話。今回は酒蔵見学ということで、中埜酒造へ。生まれて初めての酒蔵見学をつい先週したばかりなのだが、よもやこんなに早く2度目の機会が訪れることになろうとは。この2週間ほどを切り取ってみれば、私はよほどの酒好きだということになってしまう。人生というやつも世の中に負けず劣らずよくわからない。
駅から中埜酒造までは徒歩10分くらい。木造の趣のある資料館はもともと酒造につかわれていたところだそうだ。1時間に一度というガイドに他の客も含めて20名あまりがぞろぞろと引き連れられ、でかい樽などを眺める。皆ほうほう言っているが、おそらく他になにも言うことなどなかろう。もちろん私にも依存はない。あんなものを風呂桶に使ったら、足がつかずにそのまま溺れてしまうに違いない。
その後一同は視聴覚室もどきな場所に入れられ、ありがたい酒ビデオのご鑑賞とあいなる。純米酒やら生酒やら大吟醸やら、いろいろな種類の酒があり、季節ごとの料理にあわせてこんな酒をどうぞ、と紹介される。まさしく絵に描いた餅。いいから早く飲ませろという無言の思いが周囲からひしひしと伝わってくる。
というわけで試飲タイム。スパークリング日本酒とか、日本酒のカクテルとか、養命酒もどきとか、なにやらキワモノめいたものがさも当たり前のように出てくるあたりがさすが。こんなものそんじょそこらのスーパーでは恐ろしくて入荷もできまい。でも飲んでみると意外といけるんですな。「そよ風のように」という商品名もなかなかにけったいである。
そうは言ってもやはり一番人気は純米酒大吟醸。中にはどう見てもそれは試飲じゃない、というくらいの量をコップになみなみとたゆたたせている御仁もいる。オプショナルツアーなメンツの人だったのでしっかりツッコんでおきました。でもどうやらガイドのお導きによらねば試飲にはありつけないようで、その辺は来るもの拒まずの男山酒造とは違っていた。言っただけで飲めるのと、ある程度おあずけを食らった後に飲むのと、どっちがいいだろうか。ちなみに売店では日本酒用のグラスが妙に安く売っており、肝心の酒を差し置いて人気商品になっていたりもする。

ミツカン

{{image_right 0,'ミツカンの資料館。まるで旧家のようなたたずまい。'}}本来の予定は酒蔵見学だけの予定だったのだが、時間が余りまくったとのことで、近くにあったミツカン資料館にも寄っていくことに。「酢の里」という名前からしてすでに酸っぱそうである。ちなみに酢酸には高校時代の化学実験で「無機化学界最強の刺激臭」の称号がダテでないことをイヤというほど思い知らされた経験がある。単に匂いをかいだだけだが、それでわさびを食べ過ぎたときのような鼻にぬける感触を味わえるとは思いませんでした。アンモニアと並び立つ両雄であると言えよう。
まあそんなスっぱいんだかショっぱいんだかよくわからん思い出はどうでもよい。
ミツカンの見学コースではまず始めに酢ビデオから始まる。中埜酒蔵とは創業者が同じ一族の間柄らしいが、このへんはちょっと違う。しかしこのビデオがなかなか作りのよいもので、酒を飲んだ直後ということもあって、酢の効用などを聞いているうちに眠くなってゆく。おやすみなさい。
で、知らないうちにビデオが終わるとなにやらコップに入った液体が手渡された。なんじゃこりゃ?と思えばなにやら「バーモント」とかいうどこぞのカレーのような名前の飲料酢。想像を裏切らず林檎酢飲料だそうである。とりあえず眠気覚ましの酢酸でなくてよかったと思いつつ一口飲むと……
目がさめた。
飲料とはいえ酢を甘く見るべきではないということを思い知らせる、さすがの酸っぱさである。しかもよく冷えていて酸味倍増。虫歯の人なら悶絶したことだろう。睡眠を誘発することを見抜いてのこの処置だとしたら、ミツカンもなかなか侮りがたい。
{{image_left 3,'ミツカンの工場。木造のものを今でも使いつづけているそうだ。ちなみに壁が黒いのは表面を軽く焼いて炭化させているのだとか。炭は気泡が多いので、火事のときに水をぶっかると水をよく含んで延焼を防げるそうです。木造家屋の多い日本人ならではの知恵ですな……とそんなこと本文に書けよというようなことを書いてみる。'}}で、肝心の資料館へ。ミツカンが「三つ環」のことで、トレードマークはそれを図にしたものだとか、今年がちょうど創業200年だとかのトリビア的知識を取り混ぜつつ酢の製造工程が紹介されてゆく。日本の酢は主に米を原料としたものであり、その点で酒蔵とは結びつきが強いというのもなるほどである。あと、昔の酢で寿司飯をつくると山吹色になり、小判の色で縁起がいいねこン畜生……と江戸時代の創業当時にちょうど流行りはじめた寿司屋に気に入られ、業績を伸ばしたんだとか。よかったですね。
で、見学も終盤に入ったところで実際の工場をちらっと見ることができるのだが……これまた酸っぱい。目が、目がぁぁぁぁ。鼻もぉぉぉ。さすがです。参りましたから早く次に行きましょう。工場の人はこの飛び交う酢の殺菌作用で風邪を引かないんだそうです……とかにこやかに言ってるガイドさんは慣れてるからいいだろうけどこっちはこんな酸っぱい匂いには慣れてないんだってば。そこの老夫婦、真に受けて深呼吸してんじゃない。そんなの毎日やらなきゃ無意味なんだから。
これもやはり終盤に入って緊張感のゆるんだ観客の気付けなのだろうか。ううむ一度ならず二度までも。やはりミツカン侮りがたし。資料館も中埜酒蔵よりも立派だしな。景観のためにパイプや電線を地中化したり、資料館内でもリフトやスロープなどのバリアフリー設備があったりしてポイント高し。
でも酒の試飲にはかなわないと思った。