英文法目から鱗

普段TVを見ないのを取り返すかのようにずっとTVばかり見ていたのだが、たまたま見た教育テレビの「ハートで感じる英文法スペシャル」がとても面白かった。去年の夏から秋にかけて放送されていた「3ヶ月トピック英文法」をまとめて再放送したものらしいんだけれども、これがまさしく目から鱗の連続。随所でネイティブスピーカーに「あなたならどう表現する?」とインタビューした結果を交え、説得力もなかなか。つい見入ってしまった。
全部通して見たところ、ポイントとしては「距離感」「躍動感」の二言に尽きるようだ。たとえば過去形は遠くにあるものを眺めているような「距離感」で、現在完了形は遠くから近づいてきて今まさに自分が受け取るという「距離感」。現在完了形の説明ではボールを受け取るような仕草を交えて説明していて、たとえば

  • I have cleaned my bedroom.

なら今まさに掃除が終わって「あー疲れた」とか「おかげでこんなに綺麗になったよ!」という文章があとに続くニュアンス。これが

  • I cleaned my bedroom.

のように過去形を用いるなら、「週末なにしてた?」と聞かれたときに答えるようなニュアンスになるとのこと。
これくらいなら学校の英文法でもやったよ、という話ではあるけれども、それを文法という機械的なものではなく、「遠くにあるものを眺めるような」とか「どんどん近づいてくるボールを今まさに受け取ったような」というイメージとして捉えることによって「活きた」英語として使えるようになるとの説明になるほどと頷く。特に混乱しがちな過去形と現在完了形を、ここまで明確にイメージ化できるあたりが面白い。
同じ距離感の話としては、他にも丁寧表現の話がある。要求することそのものをむき出しに表現(命令形)するのではなく、過去形を用いてそこから一歩「距離」を取ることによって丁寧さのニュアンスを表すのだそうです。要求することがら、というボールを真綿で包んでさらに一歩距離を取るそうな。これを「オトナの英語」とか言ってましたな。
さらには仮定形では、現実離れした仮定という現実からの「距離」を表すために過去形を用いるといった説明をしていた。これらを通してみると、英語では過去形という形式を用いることによって、なんらかの「距離感」を表現するのだ、ということがわかるようになっている。過去形、現在完了形、丁寧表現、仮定法が全部「距離感」という言葉によって繋がりましたよ!すげー。なんか一段階あがった感じがするなあ。
もうひとつのポイントとしては〜ingによって「躍動感」が表現される、というところ。今まさに何かが行われているところなんですよー、という間隔を表現するのは単に現在進行形だけではなく、動名詞においても同じなのだという説明でまた目から鱗。例文としては動名詞を用いて

  • Talking in libraly is not allowed.

とすると、今まさにしゃべくっている人に対して注意をしているというニュアンスになるのに対し、不定詞を用いた

  • To talk in libraly is not allowed.

では、張り紙などに書かれる文句のように、より抽象的・一般的なニュアンスになるとのこと。この二つを隔てるのが「躍動感」の有無である、という説明。そしてネイティブスピーカーへのインタビューによって、彼らがまさしくそのように使い分けをしているのだということが明らかに。ふーむコレは面白い。
他にもmustとhave toの違い__圧力を受けるという意味においては同じだが、mustは自分のうちから湧いてくるモノ、have toは規則など、外からかけられるモノ__など、学生時代に勉強しながら「なんでだ?」と思っていたポイントがどんどん解明されていく。単純にmustをhave toに書き換えてマルをもらっていたあの中間試験はなんだったんだ!とか思いながら、気がつけばあっという間に最終回になってしまっていた。
いやー、正月早々面白かったなあ。学校で習った英文法がどんどん新しい形に置き換えられていきましたよ。
最後に紹介されていて印象深かったのが、日本人の英文法のレベルは高いんだけれども、いざ使用するとなるとそれが活かせていない、というコメント。まあなあ。たしかに今回の話だって、今まで積み重ねてきた英文法の知識があってこそ目から鱗が落ちるってもんだ。そういった意味ではあの苦しい授業もまったくの無駄ではないということなんだが、とはいえ英会話に活かせない知識じゃねえ。でもって続きを聞いてみると、その原因は英文法という「規則」に縛られているからであって、「イメージ」を身につけることによってその規則から解き放たれようというのがこの番組のコンセプトだったらしい。なるほどねえ。
もちろん実際に英語を「身につける」ためには、実戦を積むことによって、英語を本当に自らの手に馴染んだ道具にすることが必要なんだろう。けれども、この番組のような方法で英文法の「イメージ」を掴むのは、実践英会話に至る前段階として文法と会話を結びつける手法としてはすごくいいんじゃないかと思った。どうせならこういったイメージ手法を中心にして英文法教育を見直すことによって、英語教育全体をもっと有機的に結合させることができるんじゃないだろうか。私は目から鱗とかいって喜んでいるわけだが、それはつまり一度目に鱗が張り付いてしまったってことなんだもんなあ。そんなのナシにしてストレートに理解できればそれに超したことはないわけだ。
あ、あと冒頭で「嵐が来るぜ」などとカッ飛んだセリフを飛ばす講師の大西泰斗(東洋女子短期大学教授らしい)も面白かったです。1月5日からは「英会話」シリーズの再放送をやるらしい。せっかくだから見てみようかなー。
しかし教育テレビも侮れないものだ。