病人を作るには「病気」の定義を変えてやるのが一番早い

Yahoo!ニュースで「1300万人が有病者 メタボリック症候群」という記事を見ました。内臓脂肪型の肥満に高脂血症や高血圧、高血糖の症状が重なった状態のことらしいんですが、1300万人とはまたずいぶんな人数です。日本の人口(約1億2千万人*1 )の1割以上がメタ症(勝手な略称)ってことになりますね。日本は血液型がABの人よりもメタ症の人の方が多い国みたいです(日本人でAB型の人の割合は9.9%*2だそうなので)。ちなみにメタ症予備軍も1400万人いて、あわせると2700万人。「割合は中高年になるほど増加傾向を示し、40−74歳に限ると男性では2人に1人、女性では5人に1人が有病者か予備軍だった」そうです。
恐ろしいですね。気を付けないといけませんね。
しかし、これって本当に病気なんでしょうか。goo国語辞書にメタ症についての項目があって、そこには

メタボリックシンドローム【metabolic syndrome】
代謝症候群の意〕肥満・高血糖・高中性脂肪血症・高コレステロール血症・高血圧の危険因子が重なった状態。複合することによって糖尿病・心筋梗塞(こうそく)・脳卒中などの発症リスクが高まる。高カロリー・高脂肪の食事と運動不足が原因。メタボリック症候群。シンドローム X。

とか書いてあるわけですよ。病気だとは書いてない。あくまでも「状態」なわけです。
えーと、だとすると単なる「状態」にある人のことを「有病者」とか呼んじまってることになるわけなんですが、いいのかこれ?そりゃまあ「これは『個性』だ!」とか言うつもりはさすがにないですが、メタ症そのものが糖尿病や心筋梗塞脳卒中なんかの「予備軍」にすぎないんじゃないかという気がするんですが。うーん。
ちなみに同じgoo国語辞書で病気を調べると

病気
(1)肉体の生理的なはたらき、あるいは精神のはたらきに異常が起こり、不快や苦痛・悩みを感じ、通常の生活を営みにくくなる状態。やまい。疾病。
(2)(比喩的に)悪いくせをいう。
「例の―がはじまる」

こうなってます。むう。
これ、元ネタは厚生労働省2004年国民健康・栄養調査らしいです。そこを見てみると「結果の概要(PDF:2,526KB)」の5ページ目に

※各年代のメタボリックシンドローム内臓脂肪症候群)が強く疑われる者と予備群と考えられる者について、平成16年10月1日現在推計の男女別、年齢階級別の40-74歳人口(全体約5,700万人中)を用い、それぞれ有病者、予備群として推計したところ、40〜74歳におけるメタボリックシンドローム内臓脂肪症候群)の有病者数は約940万人、予備群者数は約1,020万人、併せて約1,960万人と推定される。

という記述がある。これかー。
うーん、煙草すう人は肺ガンになりやすいのかもしれませんけど、じゃあ喫煙は病気なのかと言われるとなんか違うような気がするしなあ。極端な話、誰しも明日は風邪をひくかもしれない風邪「予備軍」なんじゃないかという気もしなくはない。じゃあ普通の人は全員病気なのかというとそんなアホな話もないわけです。
そんなに病人を増やしてどうしたいんだと思うんですけどねえ。まあ言葉の定義なんて曖昧ですから、とか言ってしまえばそれまでですが、なんかいやーな感じがします。みんながよってたかって俺のことを病気だっていうんだ!つーとなんか被害妄想な人みたいですが、そんな気持ちがちょっとわかる。
まあ高血圧やらなんやらってのは生活習慣に関わるものでもあったりしますし、注意喚起って意味ではいいのかもしれませんけどね。しかしあんまりやりすぎると逆効果なんじゃないかなあとも思います。「病気」という言葉の重みがどんどん減じていくような。
と言いつつも、個々の状態をとりまとめてさらに別の名前をつけるってやり方はある意味ウマいです。おそらく今年の健康診断でメタ症を拝命される方がいっぱいいることでしょうし、なにぶん聞いたこともないような名前です。これは一大事とばかり精密検査を受けに病院に駆け込みでもしてくれれば、病院にとっては新規顧客一丁あがりてご来院ありがとうございましたってことになるのかもしれません。まさに名付けの勝利。それで他の病気でも見つかれば結構なことなんじゃないでしょうか。
しかし、やっぱりいい気持ちしないなあ。ま、しょせん我々はみんな「現代病」なんだから今さらひとつふたつ疾病が増えたところでどーってことないっすよ、とか投げやりなオチをつけときましょう。