ツキアスノハカといふ黒い花といつしよに

私もmixiは使ってますが、mixi画面上部にはスポンサーバナーが表示されますね。何種類かある中からひとつがランダムで表示されてるみたいですが、その中で「月刊アスキーは、何の雑誌になったらいいでしょうか?」と月刊アスキー新編集長であるらしいなぎら健壱氏が問いを発している広告があります。そんなもん見たことねえぞというあなたは何度もリロードすればそのうち見られますけれども、「俺はmixiなんか使ってねーよ」というあなたはきっと広大なWWWをさまよえばどこかで目にすることができるのだと思いますけれども、わざわざそこまでして見なくてもよいのでとりあえず私の言うことを信じて「そういう広告があるのかふむふむふむん」とでも思っておきなさい。つーか本家のサイトで見られるからそこで見てくれりゃいいですよ!
月刊アスキーといえば日本のPC史のそれこそ黎明期から存在し続けるちょっと玄人っぽい雰囲気の漂う雑誌としてそこらの初心者向け「Excelチョイ技100連発!」などの有象無象とは一線を画す存在でありました。しかし「PCなんてどれ買っても大して変わんねーよ」という時代の趨勢には抗うこと叶わず、今年7月発売の8月号をもって休刊。10月発売の12月号は紙面を大幅にリニューアルして登場するという状態に陥ってしまったのです。なんでもIT視点のビジネス誌になるんだそうですが、なんつーかパーツをあれこれ取り替えたりβ版のソフトをインストールしてひどい目にあったりしながら遊ぶ人はもうすっかり少数派になっちまったんですな。時折「俺ってPCの自作とかしちゃうからさー」とかいうウザ……じゃなかったマニアックなおぢさんを今でも見かけますが、彼らは近い将来絶滅危惧種として手厚く保護しなければならない存在になるのでしょう。
それはともかくとしてこのキャッチコピーはいかがなものか。
雑誌のコンセプトなんてものはその雑誌を作るとなった時点でもうすでに決定されていなければいけないモノであるにもかかわらずいけしゃあしゃあと「何の雑誌になっていいでしょうか?」ときたのです。そんなもの人の意見を聞いてどうこうするもんじゃねえだろうになんたる蒙昧ぶりであることか。で、くだんの広告のリンク先へ飛んでみるとこんなことが書いてあったりします。一部抜粋します。

月刊アスキーはパソコン誌を辞めて、一体何になるのですか?」
「ITビジネス誌になるって本当ですか?」
最近多い読者からの質問に、私ならズバリこう答えます。
「そんなの自分で考えなさい」と……。
みんなの意見を聞いて、アタシが決める。それが、なぎら流の編集方針。

寝言はREM睡眠の最中に言ってほしいものだと思います。ちなみにREMとは「Rapid Eye Movement」の略なんだそうですよこれでまたひとつ賢くなりましたねっつーかそんなこともう知ってますか?しかしこの無責任っぷりは一体どこからきたものか、これはなかなか難しい質問です。仮にも編集長を名乗るならアンタが考えてアンタが決めるんでしょうに、一番大変なアイディア出しの部分はド素人の読者に任せて「アタシが選ぶ」とはずいぶんご大層なことで。えいもう辞めてしまえ辞めてしまえ……というところでふとある詩を思い出したので、以下やっつけでパロディをつくってみました。

ツキアスノハカといふ黒い花といっしょに
革命がやがてやってくる
ブルジョアジーでもワーキングプアでも
おほよそ卑怯な下等なやつらは
みんなひとりでWWWへ出たブロガーのやうに
潰れて流れるその日が来る
辞めてしまへ辞めてしまへ
話題を集めたいために尤もらしい理屈を打つやつも
じぶんだけで面白いネタをかきあつめて
「そんなの自分で考えなさい」といふ偽編集長も
いつでもきょろきょろ彼方と此方をくらべるやつらも
そいつらみんなをびしゃびしゃに叩きつけて
その中から飢えた餓鬼どもを追ひ払へ
それらをみんな2ちゃんねらーやネットイナゴにつかせてしまへ
回線を増強するやうに新しい時代は新しいインフラを鍛へる
Winnyをつかって雑誌のスキャン画像もばらまけ

元ネタは宮沢賢治の「サキノハカといふ黒い花といっしょに」です。プラネテスという漫画の中で引用されていたのが不思議と印象に残ってたんで使ってみましたが、なんつーかまあ歪な感じになっちまいましたな。普段からなにかを悪し様に言ったり書いたりはしないように心がけていたんですが、それだと表現の幅が広がらないよなあと思ってやってみたらこのアリサマです。慣れないことはするもんじゃないというか、やっぱりあんまりいい気分しないっすね。でもなあ、こんな広告を打っちゃうセンスってのはやっぱりよくわからんですよ。正直、たとえ冗談でもこういうことを言う雑誌がうまくいくとは思えないんですが……。
つーかこうやって反応することもおそらくはプロモーションの一部ということなんでしょう。きっと。それで私に書けたものはといえばせいぜいこの程度。わかっていてすらうまく踊れないとはねえ。ふう。