記憶に替わるチカラ

私が勤めているのはIT関係でもなんでもないところでして、職場には「普通の人」があふれています。そこでは私程度のレベルでもITリテラシが高いと言われてまして、まあラクでいいなあというところなんですが、最近、周りの「普通の人」たちも当たり前にGoogleWikipediaを使うようになってきました。なにを今さら、というような話ではありますが「普通の人」の認知スピードってのはそういうものなんだろうという気がします。



この2つのサイトがなにをもたらすのかについてはすでに散々言い尽くされてますが、記憶力という価値の崩壊という点がもっともインパクトの強いところでしょう。もっとも、私の職場ではまだ「あの言葉ってどういう意味だっけ」とか「あの資料はどこにあるんだっけ」とか聞かれることが多いです。でもってそういう方々は私がGoogleで検索する時間を待つほど寛容ではない場合がほとんどだったりする。それこそツーと言ったらカーと即座に答えないといかんのです。けれども私はすっかり記憶力に頼ることをやめてしまったので、残念ながらご期待には添えない。デキの悪いヤツだと思っている方もいることでしょう。
ただ、若干の時間がかかるかわりに到底一人の人間では記憶しきれないくらいのWWWというデータベースが背後に控えているんですけどね。というかGoogleWikipediaも誰にでも使えるんだからあんた自分でやれよ、そっちの方が自分のペースで仕事ができてよっぽどいいでしょうが、といつも思ってるんですが。「GoogleWikipediaが使えること=リテラシが高い」という図式は、さすがにいくらなんでもレベルが低いという気がする。
そういう状況が、あと1〜2年もするとすっかり変わってしまうのかもしれないなあ、という気がしてきたわけです。

まったくもってなにを今さらって感じですな。まあ所詮は自分の身になにかが起こってからでないと実感できないということなんで、そこは勘弁して頂きたい。というかそろそろ次のステージのことを考えなきゃいかんよなあ。なにせグータラな人間なものでして、いつもどうやったらラクができるかを考えているわけなんですが、ラクをするための一番いい方法ってのは「普通の人」よりも一歩先んじておくことなんだってのがこの5年くらいの間にたどり着いた一応の結論なのです。
膨大なデータベースとそのデータを高精度で検索する術を手に入れたら次はなにが必要になるかってーと、その膨大な情報をいかに活用するかだろってのはごく自然な流れでしょう。というかもうその流れは押し寄せてきてるよなあ。それがWeb2.0とかいうやつで、ソーシャルなんちゃらと呼ばれるサービス郡のように思います。
いわゆる「集合知」ってやつなんですが、おおざっぱに状況を見るにつけ、どうやらそれだけでもまだ足りないようなんですな。たとえばはてなブックマークが衆愚化してるとはあの界隈でよく言われることけど、これなんかは「集合知」に対する不満として捉えてもいいでしょう。
ただ、私はこの言い方はあまり好きじゃないです。なんでかっつーとこの言葉の裏にははてなブックマークに対して過度の期待があるように読めるからなんですけどね。今のはてなブックマークってのはまだまだ母数が少ないですけど、それでもすでにマス化が進んでいるように見えます。つまり誰にでもそこそこウケのよい記事ばかりが目立つようになってきていて、尖った情報が探しにくくなっているという。

ここで必要とされているのは端的に言っちゃえばパーソナライズなんでしょう。えーと要するに自分がほしいと思う情報だけを提示してくれよ、ということですね。まあAmazonのリコメンデーションみたいな機能といえばいいんでしょうか、まるっきり不可能じゃないとは思いますけど、そのために必要な実装だとか、サーバのスペックだとかを考えると気が遠くなります。いつかはできるだろうけど、もうちょっと時間がかかるんじゃないか。
で、だ。コンピュータがやるにはまだ厳しいところこそ、人間がやりゃいい分野なんですな。つまり自分に必要な情報を、自らの判断で識別せよということです。あなたにとって必要なものはあなたがよく知っているでしょう。じゃあコンピュータなんかに任せずに、あなたがやるのが一番良いのでは?
加えて言えば、自分にとって必要な情報だけではなく、たとえば自分の会社にとって必要な情報とはなにか、自分の所属している部署にとって必要な情報とはなにか、を見抜く目を磨くことこそが今後は求められていくんでしょう。少なくともそれをコンピュータがやってくれるまでの間はね。不満を言うのは簡単なんだけど、みんながその不満を持っているとすればこそ、それを自らの武器にすべきと捉えるべきなんじゃないのかしらん。
まあ一番いいのはそういうサービスを自分で作っちまうことなんでしょうけどね。残念ながら私には無理。まあ私が思いつくようなことは当然たくさんの人がとうに思いついているわけで、すでに色んな人が色んなところで試行錯誤をしています。ただ、今のパーソナライズ機能って、Googleが出てくる以前の検索エンジン程度の精度しかないですね。残念ながら。
それでもいつかGoogleのようなブレイクスルーが出てくるんでしょう。ただし、それは今ではないです。もちろんそれは明日なのかもしれないですが、といってあんまり先走りすぎると単に明後日の方向を見ているだけの人になっちまいますからねえ。つーかGoogleが「普通の人」に敷衍するまでに5年も6年もかかってるんだからそんなに焦るこたねーですよ。第一、記憶力に価値があった時代ってずいぶん長いですから、そこから脱却するのにもそれ相応の時間がかかると見る方が妥当でしょう。
というわけでまずは情報に関する目利きの能力を鍛えましょうってことですな。どうやって鍛えるかってーと、これがまた人によって様々なんで難しいんですが、とりあえず日頃からそれを意識して情報に触れるようにするのがよいのではないかと思います。そして本当に自分に必要だと思った箇所だけを覚えるようにする。やってるうちに自分なりのパターンってのができてくると思いますよ。そうすりゃしめたもんだ。

これってなんかに似てるよなあ、と思ったらあれだ。国語の試験ですよ。「作者は〜についてどのように感じたのか。30文字以内で述べよ」とかいうあれ。今回の問題文は「現在の状況においてあなたが必要としている情報はなにか」って感じですけどね。文字数制限もないし、ラクなもんです。学校の勉強ってのも役に立たせようと思えばなんとでもなるもんだなあ。
多少こじつけっぽくはあるにせよ。