フィットネスクラブに通う。

突然ですがフィットネスクラブに通い始めました。
幸いにして今のところメタボリックがどうというわけではないので、単に身体を鍛えようと思ってのことです。簡単に言えばアイリッシュダンスのためですな。去年2月から初めて以来、ずーっとハマりっぱなしなわけで、それもとうとうここまで来たかと思うと大したものです。飽きっぽい私にしてはよく続く。まあハマっていられるうちは徹底してハマり倒してしまおうというところですか。そこまでやろうと思えることが、後にも先にも人生の中でそれほどあるとも思えないし。



で、まず初めに体組成のチェックとかをするわけです。その結果は体重、体脂肪量、筋肉量のことごとくが標準値の中に収まっているという至極つまらないものに。むう。
ただし筋肉のつき方に関しては、上半身と体幹が中の下、下半身が中の上というところです。上半身をまったく使わずに足だけを使って踊る、アイリッシュダンスをやる人らしい数値ですな。平たく言えば逆じゃない三角形な体型ってことで、世の理想とはまるで逆を行っているというある意味無惨な結果に。
で、全体のバランスについては、筋肉量に比して脂肪量がやや多めであり、分類としては若干の「肥満体型」らしいです。繰り返します。「肥満体型」です。いいですか、くどいようですがもう一回繰り返しますよ。「肥満体型」です。
あれまあ。

ま、そんなわけでトレーニングの方針は、上半身をもう少し鍛えつつ、全体のバランスとして体脂肪を筋肉で置き換えていくことにしましょうということになりました。実に淀みのない、わかりやすい流れですな。
その後は1時間ほどかけて、メニューに従って利用するマシンの使い方をレクチャーしていただきました。どのマシンを使うにしても、完全に伸ばしきらせてしまわないのが重要らしい。そうでないと勢い余って関節を痛めてしまうんだそうで。そんな基本中の基本みたいなことでも、初心者にとってはへーって感じの新事実であります。

フィットネスクラブに漂う人工的爽やかさ

で、色々なマシンの間をふらふらと漂いながら見てみると、実に様々な人たちが運動している姿が目につきます。それこそアスリートみたいな人がとんでもない量のウエイトをがっしがっしと持ち上げているかと思えば、いかにも医者から厳しく減量指令を言い渡されていそうな人がTシャツを汗で変色させながらバイクを漕いでいたりする。老若男女も様々です。ああ、これなら私がいてもあまり違和感はなさそうだ。ちょっとほっとしました。
いや、なんと申しますか、フィットネスクラブに通うにあたってはある種の不安があったわけです。そこでは日焼けしてオイルで身体をテカらせたマッチョメンズが超ストイックに自らのマッスルと対話をしつつ、仲間内で「今日はキレてるね!」とか「ユー、上腕三頭筋の厚みがイイね!」などと壮絶な作り物感漂う笑顔を交わし合っているのではないか。そんなところ行きたかねえなあ。
つーかマッチョメンズってのが英語としては誤ってるってのはわかってますからね。一応。
えーとなんだ。けれども実際にはランニングマシンで走りながら雑誌を読んだりTVを観たりするのが普通みたいです。マシンを使うにしても軽めのウエイトで無理せずシェイプアップって人が多数派。いわばライトユーザーが多いんですな。まあ考えてみりゃ当たり前なんですが、こういうのはやはり自分の目で見てみなければ納得しないのですよ。理屈じゃわかっているけれども、やはりフィットネスクラブといえばマッチョメンズが(以下略)というのを想像してしまう。まあそんなこと全然なかったのでほっとしたと、そういうわけです。



しかしそれでも、クラブ内に漂う雰囲気にはやはり日常生活とは違う独特なモノがあります。レベルの高低はあるにせよ、そこで繰り広げられているのは自ら鍛錬するという一種のストイシズムなのであり、それにつきまとう自己満足、ないしは人工的爽やかさが薄く、しかし確実に場を覆っているように感じられる。
走るにせよウエイトを持ち上げるにせよ、その行為自体にはなんの生産性もありません。加えて言えば、そこで行われるような運動が日常生活で直接役に立つこともまあないでしょう。椅子に腰掛けて足首にローラーをかまし、膝下だけで蹴り上げるような運動なんて、一体どこでどう役に立つというのやら。ジムでの運動ってのは一事が万事そういう感じなわけです。
けれども、そうであるがゆえに自己目的化されてるんだろうなあ。そんな気がしました。
運動して理想の体型に近づくのが目的ってのは皆変わらないはずです。けれどもそれは運動した結果としてしか表れない間接的なものだし、しかも数ヶ月なりの結構長い時間がかかるものでもある。それだけで重たいものを持ち上げたり、ハムスターよろしくコンベアの上で走り続ける日々に耐えるのはなかなかに難儀なことであろうと思われます。もっと手っ取り早い目的が必要なのです。
自己目的化ってのはそのための方策なんじゃないでしょうか。前よりも10kg重たいウエイトを持ち上げられるようになったり、ペースを上げて走っても無理のない心拍数を維持できるようになったりする。それは確かな進歩です。でもそれが日々の生活でどう役に立つのかというとどうにも答えにくい。そして、答えにくいがゆえに10kg重たいウエイトを扱えるようになったこと、ベルトコンベアの高速回転について行けるようになったことそれ自体を喜ぶようになるんじゃないか。

そのような克己には当然達成感がつきものです。そしてクラブ内にはそんな人たちしかいないわけで、それがさして広くはない空間の中で凝縮されていくことになる。「爽やかさ」の源というのは、おそらくそこにあるのでしょう。けれどもその達成感自体が、自己目的化された、いうなれば人工的に作り出されたものであるがゆえに、若干の違和感がつきまとうものになっているのではないか。
それを気にする人もいるでしょうし、気にしない人もいるでしょう。人工甘味料とか、人工着色料とかそういう類のものに近いっちゃ近いのかな。で、まだ通い始めたばっかりってこともあって、私はまだ違和感を感じているわけですよ。大げさに言うと、ここはちょっと違う世界だぞ、とでも言うんですか。だからこそこんなことを書いたりする。関係ないですがダイエットコークはあんまり好きじゃない。
けれども、その違和感にも次第に慣れていっちまうんじゃねえかなあという気も同時にするんですな。人間、案外いろんなことに慣れていってしまうものです。違和感を感じながらも通い続けることで、次第に感覚が鈍磨していくってのはいかにもありそうなことでもある。そういう意味では、この文章ってのは今じゃなきゃ書けないものだと言えるのかもしれないですね。

まあダンスのためってこともあるし、とりあえずしばらくは続けてみることにしようと思うのです。そうすればフィットネスクラブにつきものの雰囲気ってやつに、自分が慣れられるのかどうかもわかるでしょう。それこそ壮絶自己目的化ストイック人間になっている可能性だってなしとはしないのです。ミイラ取りがミイラになった挙げ句に「みんなもフィットネスで爽やかな汗を流そうじゃないか!レッツビギンライトナウ!」とか人口爽快感満点の笑顔かつ無駄な巻き舌で布教活動にいそしみ始めるかもしれないのです。
ううむ。
まあなにはともあれ「肥満体型」からも脱却できればいうことなしなんですけどね。いや、やっぱり気になりますよ「肥満」とか言われりゃさあ。