「仕事を進まなくさせる8ヵ条」vs「仕事を進めるための8ヵ条」
「第二次世界大戦中のライフハック「仕事を進まなくさせる8ヵ条」」がなかなか興味深いです。「(敵国の)仕事の進みを遅らせるように人々をトレーニングするためのマニュアル」なんだそうで、
- 何事をするにも「通常のルート」を通して行うように主張せよ。決断を早めるためのショートカットを認めるな。
- 「スピーチ」を行え。できる限り頻繁に、長い話をすること。長い逸話や自分の経験を持ちだして、主張のポイントを解説せよ。「愛国的」な主張をちりばめることを躊躇するな。
- 可能な限りの事象を委員会に持ち込み、「さらなる調査と熟考」を求めよ。委員会のメンバーはできるだけ多く(少なくとも5人以上)すること。
- できる限り頻繁に、無関係なテーマを持ち出すこと。
- 議事録や連絡用文書、決議書などにおいて、細かい言葉遣いについて議論せよ。
- 以前の会議で決まったことを再び持ち出し、その妥当性について改めて問い直せ。
- 「警告」せよ。他の人々に「理性的」になることを求め、将来やっかいな問題を引き起こさないよう、早急な決断を避けるよう主張せよ。
- あらゆる決断の妥当性を問え。ある決定が自分たちの管轄にあるのかどうか、また組織上層部のポリシーと相反しないかどうかなどを問題にせよ。
となっている。標準ルートの絶対視、過剰なまでの説明癖、神経症的リスクヘッジ、多重に構造化されたルール……要するにこれって「官僚的な組織」のことですね。それを杓子定規的に適用することで組織の効率はガタ落ちになる、と。
とはいいつつも、組織論の世界じゃこんな内容が推奨されてたりしないか?という疑問も湧いてきます。スマートな組織づくりのために必要とか言われてない?あれ?
まあ、つまるところバランスの問題なんでしょう。ただ、それだとネタにならんわけでして、せっかくなんで比較対象をあげて考えてみることにしようと思ったのでした。
てなわけで、「仕事を進まなくさせる8ヵ条」の内容をひっくり返してみました。「仕事を進めるための8ヵ条」、となっているかどうか。
- 担当者に直接当たれ。「通常のルート」はいたずらな遠回りと心せよ。
- すべてを「箇条書き」にせよ。できる限り完結に、結論のみを述べること。解説は時間の浪費であり、不要である。そのために生じる誤解を恐れるな。
- 判断は現場においてなされるべきである。意志決定に関わる人数はできるだけ少なく(一人であることが望ましい)すること。
- テーマを限定せよ。他のテーマが一見関係あるように見えても、そのほとんどは無関係であるか、もしくは決断に影響するほどの重要性を持たない。
- 議事録や連絡用文書、決議書の類は不要。やむを得ず作成する場合においても、用語等の言葉遣いの統一について時間を割くべきではない。
- どのような「新事実」があろうとも、一旦なされた決断を覆してはならない。
- すべての決断は瞬間的に下されなければならない。将来の問題への対応は、それが顕在化した場合に検討されるべきである。空が落ちてくることはない。
- 「守備範囲」や「ポリシー」に縛られて最善解を逃すことがあってはならない。
単純にはひっくり返せない部分があったり、あえて恣意的にしたところがあったりもするんですが、まずはこんなところかと。こうやって見てみるとベンチャー企業の心得みたいにも見えますね。なにはともあれ仕事はスピーディに進みそう。
とはいえ、眺めているとこちらの8ヵ条が抱える問題点も見えてきます。決断の属人化、説明不足による誤解、リスク対策の欠如、ルール不在による一貫性の欠如……つまりはすべてが「場当たり的」だということになるんでしょうか。仮に取引先がこういう会社だったりすると、1年先、2年先が不安になりますな。あー、その件は担当者が辞めちゃったんでわかんないですねー。え?書類?ないです。ええ、見たことありません。こんなことを言われた日には、ぐふっと吐血して果てるより他にない。
つーことで「バランスの問題」なんですな。で、そのバランスってのは会社の規模や性格によって変わってくる。元記事のトラックバック先にある「「仕事を進まなくさせる8ヵ条」で「敵国のスパイ」氏が注意すること」という記事では、そのへんが端的に書かれています。ケース・バイ・ケース。なにをするにしたって教科書どおりに話は進まない。
とはいえ、両極端を抑えておくってのはものごとを考える上で役に立つでしょう。頭が整理される。今回のふたつの「8ヵ条」は、おおざっぱに言うと速度と確実性の対立ってことになるんでしょうかね。まとめてみるとこんな感じになるかもしれません。
このさじ加減をどうするのか。それが経営者を筆頭にした、管理職と呼ばれる人のお仕事なんですな。一方だけに囚われず、両者のバランスを考えて指示が出せているかどうか。しっかりできていれば「敵国のスパイ」に惑わされる心配も薄れようというもんです。時にはそういうチェックをしてみるのもご一興なんじゃないでしょうかね。