予告検知に「数億円」のふしぎ

秋葉原で起きた痛ましい事件を発端に、総務省がネット上での犯罪告知を検出するシステムを作る、とかブチあげたそうで、そのへん巡っていろいろ議論がかまびすしいようです。
単にシステム構築という面に限ってみると、0億円でも数億円でもどちらでもありえることなんじゃないか、とは思うんですけどね。金額の多寡を決定する要素はたくさんあるでしょうが、至極単純化して考えると、どこまでを機械に任せて、どこまでを人の手に委ねるか、だよなあ。つまりは

  • 機械に頼る部分を増やす→求められる精度が高まる→システムの大規模化→金かかる

ってことじゃーないですか。
ただ、システムってのは構築しましたハイおしまい!ってもんじゃないですよね。そのあとには運用というフェーズが待ちかまえてまして、そっちにも当然お金がかかる。
で、どういうシステムを作るかってのは運用コストにも大きく係ってくるわけです。たとえば検出した情報を担当者にメールで送信するシステムってことを想定してみると、担当者が何人必要かってのが運用コストに大きく影響を与えそうだと考えられる。

  • 検出情報の精度が低い→大量のメール→担当者が大勢必要→運用コスト大
  • 精度が高い→メール少ない→担当者は少なくてもよい→運用コスト小

というところかなあ。あとは機械のメンテ費用も必要になりますが、これもシステム規模に相関するでしょう。
してみると、システム構築+運用とした場合の必要総額は、実のところそんなに大きく変動するものではないんじゃないか、という気がしてくるわけです。



記事では運用面には触れられてないんで、そのへんまったくわからんわけです。一体運用コストをどれだけと見積もってるのか。
運用コストみたいなランニングコストは、一旦システムを走らせてしまうと恒常的に必要になってくるものです。明確に運用期間を何年、と設定しているのならともかく、そうではないのであればここはできるだけ圧縮したいというのが普通なんじゃないでしょうか。とすると、システム構築の方に少しウエイトをかけて、多少お金がかかっても運用コストが少なくて済むものを作ろうとしてもそんなに無理な話じゃない。
すると「数億円」って話もあながち大ハズレではないのかも、と思えてくるんですね。
もっとも、実際そこまで考えてのことなのかはよくわからんのです。事件後、まだ日が浅いことから考えても、数億円ってのは至極大雑把な見積もりに過ぎないでしょうし。というか、記事中にある

言語技術を応用し、違法・有害情報の検出精度を向上させるもの。通常とは異なる急激な書き込みの増加や、自殺や殺人予告などの言葉を使った議論の流れなどを分析し、犯罪につながるような情報を認知できるようにする。

なる、いかにも大仰な物言いが気になって仕方がない。ずいぶんご大層なものを作ろうとしてるよなあ。翻訳ソフトなんかの状況を見れば、コンピュータによる日本語の扱いって相当に難しいんだろうなあと想像されるんですが、その上さらに「議論の流れを分析」しちゃうわけですか。むう。すごいね。素人の(ある意味ご無体な)発想が、時として技術革新のきっかけとなることがあるってのは否定しないんですが、なんかちょっと、ねえ。



個人的に、日本のIT業界が抱える問題のひとつには、顧客側の丸投げ体制とそれに伴う技術的知識の欠如があると思ってます。そのために生じるオーバーヘッドが非常にデカいがゆえに、多くの場面で必要以上に費用がかさむ。それが常態化してベンダーの体質にも影響を及ぼし、結果、国際的な価格競争力を欠くこととなっているのではないか。
とすると、「数億円」ってのは構築費用と運用コストとの天秤によってではなく、オーバーヘッド解消という第三の要素が大きな割合を占めるがゆえのことではないのか、って危惧が出てくるんですな。というか「数億円」って言ったのは「業界関係者」だそうですから、もしやそこにさらにオーバーヘッド分の積み増しが!?いやいや、総務省ってのは日本のITを取りしきってんだからそんなことないよね!……ってそう信じることができたらどれだけいいか、とまあ、色々な思いが交錯するのです。いやもうなんとも心は千々に乱れまくり。まったくもって罪作りであることだなあ。
てなわけで、えいもう「予告.in」でいいじゃん、という気持ちもわからないではない、というお話なのでした。やれやれ。