MicrosoftのGeCad買収で業界は変わるか

マイクロソフトルーマニアアンチウイルスソフトベンダであるGeCadを買収したというニュースが先週流れました。将来的にはアンチウイルスの昨日をWindowsに取り込み、よりセキュリティを高めることが狙いのようです。これに対しては「既存のアンチウイルスベンダが脅威にさらされる」という論調が多いようですが、今回の記事はそれとは真っ向から対立しています。『長期的に業界を大きく変えるようなものではない』んだとか。

でも、果たして本当にそうなのかなぁ、と思ってしまったという話。

確かにマイクロソフトの意思がSymantecMcAfeeTrend Microなどの大手ベンダと競合するところにはないということは間違いないと思います。これら大手ベンダはウイルスの解析を行い、その情報をWebなどを通じて流しているのですが、マイクロソフトがこれとタメをはるほどのサービスを提供するつもりなのかといえばおそらく答えはノーでしょう。そうするにはあまりにもコストが高くつきすぎるからです。GeCadはそれほどメジャーな企業ではありませんから、いくら専門のベンダであるとはいえ、ウイルスの解析などに投じられているリソースは大手ベンダと比較するとどうしても劣るでしょう。その体勢を改めて構築しなおし、大手ベンダと競合するまでにするコストを考えれば、なるほど記事中にあるように最初から大手ベンダと手を結ぶほうが理にかなっている。

将来的にWindowsアンチウイルス機能が搭載されるにせよ、その精度もやはり大手ベンダにものにくらべれば一歩落ちると考えられます。これも記事中にありますが、アンチウイルスソフトの性能の指標となるVirus Bulletinのテストにおいて、GeCadはそれほど優秀な成績を収めているとはいえないようです。そのレベルを引き上げるのにもやはり大きなコストがかかるでしょう。それゆえWindowsに搭載されるアンチウイルスの機能は、たとえばWindows2000/XPで採用されているデフラグ機能が、市販のデフラグソフトであるDiskeeperのサブセットなのと同じような位置付けになると予想されます。最低限の機能はあるけれども、市販のものを買ったほうが性能は上__という感じですね。

それであれば確かにマイクロソフトに既存のベンダを脅かすつもりがないように見えるわけです。買収の報を受けてTrend Microが『Microsoftのこの動きはTrendMicroの目標を実現へと加速させる助けとなるだろう』と好意的な反応を示したのも、そこを汲み取ってのものだったのでしょう。

けれども、私にはこれが本当に各社の思惑どおりに進むとは思えないんですよねー。

なんでかっつーと、ユーザーのセキュリティに対する意識というものを、私が基本的に信用していないからです。OSにアンチウイルスの機能を組み込めばいいじゃん、って話は以前からあったんですけど、じゃあなんでそんな話が出てくるのかといえば

  • ウイルス対策のためにわざわざ別のソフトを買うのはめんどくさい
  • てかそもそも買わなくてもなんとかなるでしょ?

って意識がユーザー側にあったからじゃないかと思うんですね。でもって事実普通のユーザーってアンチウイルスソフトを買わずにPCを使ってることがけっこう多かったりするものです。買っている人でも「なんかしょーがないから入れてるけどね」という意識が強い人が少なくない。さてOSにアンチウイルス機能が組み込まれたとして、そういう人たちはより高機能のアンチウイルスソフトを購入するでしょうか?

これは非常に疑問だと思います。

こういう人たちにたとえばVirus Bulletinでの成績がどうのこうの言ったところで、返ってくるのはおそらく「なにそれ」ってのが関の山でしょう。機能的に最低限であろうとなんだろうと、とりあえずアンチウイルス機能があることには変わらないんだからいーじゃん。金払わなくてすむし。というふうになるのが目に見えちゃうんですね。そうなったときに大手ベンダのシェアが保たれるとは思えない。で、あとはやれ独占禁止法だのなんだのの泥仕合が繰り広げられたりしちまうんじゃないか、って気がすごくする。

確かに私のものの見方がひねくれてるってのは否定しません。元はアメリカの記事ですんで、彼我のセキュリティに対する意識差ってもあるでしょう。でも普段から職場で

「(仕事中にいきなり入ってきて)自宅のPCなんだけどさー。なんかセキュリティとか最近言ってるじゃない。あれってどうなの?」
「やっぱりアンチウイルスソフトくらいは買ったほうがいいと思いますけどねー」
「えー、やっぱりそうかなあ。でもあれって5,000円くらいするでしょ?」
「確かにそれくらいですけど、やっぱり感染とかしたら大変じゃないですか」
「んー」
「セキュリティにはどうしてもある程度のお金がかかるってことですよ」
「でも怪しいメールは開かないようにすれば大丈夫でしょ?まあ次のPC買うときに考えるよ。じゃねー」
「……(結局なにしに来たんだあんたは)」

などという腰の砕けそうな会話を繰り返してると、普通の人のセキュリティ意識なんて信用できなくなっちまうんですよ(泣)。確かにきちんとパーソナルファイアウォールを入れて、WindowsUpdateも含めてマメにアップデートをしてる人だって中にはいるんですが、私の感触ではそういう方は至極少数です。というわけでどーしても『ユーザーはもっと機能豊富なサードパーティのアプリケーションを選択するだろう』ってのが信じられません。うう、なんか自分がすっごくヤな人間になってしまったような気がする。

もちろんWindowsアンチウイルス機能を組み込むことによって、今までまるきし無防備だったユーザーにもある程度のプロテクションがかけられることは歓迎ですし、PCはインターネットに接続して当たり前となった現在、進むべくして進む道であるとも思います。マイクロソフトが既存のベンダと諍いを起こすつもりがないのも確かでしょう。でもそれで理想的な世界が実現されるとも思えないのもまた事実。

なんで、各ベンダさんには今までのソフトをどかーんと引き離すような画期的なセキュリティソフトを開発していただきたいものだなあ、なんて思ったりいたしました。なんだかんだ言ってもPCユーザーの中で一番多いのは決してセキュリティ意識が高いとはいえない「普通の人」なんだし。いや、一番金を使ってくれるのは企業なんだからそっちでシェアが確保できればいーよってんならそれはそれで結構ですが。