秋のオリオン

休みの日というのでいつもどおりに遅寝遅起きにいそしんでいたわけだ。でもって明け方頃に喉が渇いたのでジュースを買いに外に出た。朝の4時くらいのことである。すると道路には当然のことながら人っ子ひとりおらず、通りかかる車もないってんでいやに静かだ。信号の灯りが音もなく赤から緑に変わったりする。月の光も空にある。
突然走りたい気分になった。といっても長距離走ではない。煙草を吸うニンゲンが長距離走を好むはずなどないのである。むしろ大嫌いだ。そうではなくて、最近全力疾走というものにとんとご無沙汰だと思い立ったのである。信号がかわりそうだと思って小走りになることや、急ぎの仕事で職場内を駆け足移動することはあるが、頭の中が真っ白な光で満たされるような走り方をしたのは、一体いつが最後だろう。自販機まではせいぜい2〜30m。ちょうどいい距離ではありませんか。それっ。
アスファルトの道路をスニーカーがグリップする音や、腿を上げるときに感じる筋肉の緊張、そして慣れない運動にいつも以上の酸素を要求する肺。懐かしい息苦しさ。そんなものどもが景色とともに背後に流れてゆく。自転車や車に載ったときとはまた違うスピード感は、確かに自分の身体で作り上げたものだ。赤信号を一瞬の逡巡ののちに突っ切って、ゴールまではあっという間だった。
バテバテにもなりました。
やっぱり運動不足だよなーと思いながらコーラを買って、帰りは軽く走る。そういえば前にも同じようなことがあって、その時は久々の全力疾走の回転速度に足が追いつかず、思いっきりもつれてすっ転んだのだった。なんかヤなことまで思い出しちまったなあ、恥ずかしい。まあ今回は転ばなかっただけマシか。
ふと明け方の空を見ると、なんだか見慣れた三角形が見える。雲の切れ切れに見えるその形はどうやらオリオン座であるらしい。名前と形が一致する数少ない正座である。とするとこれは冬の大三角形かよ。まだ九月だというのに、早すぎではありませんか。
おマエの寝るのが遅すぎるんだよ。