内側から見た富士通 〜「成果主義」の崩壊(城 繁幸)

62/100点ってとこか。
秋草前社長が連続する業績の下方修正を記者に聞かれ、「くだらない質問だ。従業員が働かないからいけない」「株主に対してはお金を預かり運営しているという責任があるが、従業員に対して責任はない」とのたまったことを始め、最近けちょんけちょんに言われることの多い富士通であるが、とうとう元社員にこんな告発本を書かれてしまった。本書においてはいささかセンセーショナルに富士通の内部事情が暴露され、成果主義の不の部分がクローズアップされている面があるが、それでも成果主義という言葉に対していささかなりとも期待を寄せている向きには一度読んでほしい本である。
もっとも「しょせん暴露本」とか言われそうな気もしないではないし、実際Amazonの書評には「私が読んだ時間を返して欲しい」という意見もある。なかなか手厳しい。まあこれを書いた人は人事で仕事をしている人らしいのだが、普通の従業員にとって人事というのは奥の院みたいなもんである。それが少しでも垣間見できると思えば、さすがに「読んだ時間を返せ」とまでなることはあるまい。
内容に関して言えば、富士通内部で進んでいるとされる「官僚化」など、自らの会社にあてはまるところがないか、いやでも考えさせられることになるかもしれない。基本的に労働時間の長短で功績を判断してきた日本式評価手法も、単純労働以外には使えないとバッサリ切られる。肝心の成果主義についても、実際にその運営に携わり、腐敗してゆくサマを目の当たりにしてきた人ならではの提言がなされており、参考になるところもあると思う。
ただ、提言がなされているとはいうものの、そこに割かれている分量にはいささか不満が残るのも事実だ。本書においては最終章であるChapter 6がその部分にあたるのだが、全体の1/6というのはいかにも物足りない。その他の部分は成果主義がいかに形骸化していったか、そして富士通内部における腐敗した組織体制とに割かれているのだが、これではいわゆるゴシップ的な面が表に出すぎるキラいがある。まあ人のゴシップが面白くないわけはないので、これはこれでいいのかもしれない。ただ、やっぱりちょっともったいない気はする。
最後に、これは本書の内容とはなんの関係もないのだが、この本は洋物のペーパーバックと同じような作りをしている。横組みで再生紙使用(の割には952円と文庫より高い)。それだけならどうってことはないのだが、英語交じりの非常に独特な文体になっているのは正直言って読みづらかった。具体的には

日本を代表するリーディングカンパニー leading company だった富士通は、「成果主義」 performance-paid system の導入にあたってもリーディングカンパニーだった。富士通が「成果主義」の導入に踏み切ったのは、1993年。以来、この制度を導入する企業はどんどん増え、いまでは、日本企業のほぼ7割がこの制度を導入している。しかし、この「成果主義」が、結果的には富士通をボロボロにしてしまった。

のような感じ。なんでも「これまでの日本語は世界でも類を見ない「3重表記」(ひらがな、カタカナ、漢字)の言葉でした。この特性を生かして、本書は、英語(あるいは他の外国語)をそのまま取り入れた「4重表記」で書かれています。これは、いわば日本語表記の未来型です」ということなのだそうだが、なんつーかこう、「えー?」というのが正直なところだ。つか4重表記っていわゆるJ-POPの歌詞では当たり前だろうに。ついでに言えば、同じ表現を日本語と英語で繰り返されるので、音読したら長嶋茂雄節になったりしませんかコレ。せっかくだから

日本をですね、そのー、代表するリーディングカンパニー、んー、 leading company だった富士通さんなんですけれどもね、えー、「成果主義」、いわゆる performance-paid system の導入にあたってもですね、リーディングカンパニー、だったんですね、えぇ。で、その富士通さんがですね、「成果主義」の導入にですね、踏み切ったのは、えー、1993年ですね、ハイ。以来ですね、この制度を導入する企業は、えー、どんどん増えましてですね、いまでは、日本企業のいわゆるほぼ7割、7割がですね、この制度を導入、しているんですね。しかしながらですね、このいわゆる「成果主義」がですね、結果的には、んー、富士通さんをですね、ボロボロに、ハイ、してしまった、と。えー。

こんな感じにしたら分量もムダに膨れ上がって紙代が余計にかかるようになるが、どうだ。
まあ読んでいるうちに慣れてきて、英語の部分は読み飛ばせるようになるし、「ここは英語でなんていうのかなー」と使うこともできるようにもなる。とはいえあまりに無駄が多いやりかたには変わりないので、釈然としないものがすごく残る。これもうちょっとなんとかしていただけませんか。せめて「長嶋茂雄表記」ではなくて「J-POP表記」にするくらいのことは。
それだと「途方に with confused look くれる」のような連語表現ができないとか言われるかもしれませんけど、いらないですそんなもの。その手間賃で値段が高くなってるのかと思うと、どうもね。