函館で朝市な活イカ

函館に行くのは約5年ぶり。JRで3時間ちょっとである。ついてみると駅舎が真新しくなっていて驚いた。ちなみに車内で長万部駅名物のカニ飯弁当を食べてみたのだが、そんなに感動するほどウマいもんでもないねという感じ。その割に1,000円という値段はちと高い。
仕事の方は滞りなく終わり、一泊。翌日は帰るだけというから気楽なもんである。ただし、地元の知り合いから「今の時期は活イカが食べられるので、朝市で食してから帰るように」との指令を受けた。朝には弱いんですけど。
とはいうものの、活イカなんてめったに食えるもんでもない。話のタネにもなるだろうと思い、せいぜいがんばって早起きしてみた。つか、ホテルの朝食クーポンはどうするんでしょうか。なんかもったいないなあ。
朝も早よから朝市はけっこうな人手であった。呼び声の声もかまびすしく、なかなかの活気である。しかしなにゆえ函館の朝市で夕張メロンを買わねばならんのだ。それにしてもこの時期はまだ本州からの観光客も多いのだろうか。北海道の小中高校はもう1週間前くらいに始業式を迎えているのだけれども、観光バスはやってくるわの大賑わいである。まあけっこうなことには違いない。
食堂もけっこうな数があるようで、さてどこに入ったらよいものやらとひとしきり思い悩む。チェーン店っぽいところに入るのもなんだしなあ。しかしあまり迷っているのも時間の無駄なので、ここは思い切ってキャッチセールスにつかまってみることに。
「お兄さん!おみやげ買ってかないかい」
「いや、飯だけ食いたいんだけど」
「それならウチでもやってるよ!二色丼はホタテとウニが乗ってて__」
「いや、イカで」
「ならイカ刺定食だね。ほら、ここで泳いでるヤツだから活きいいよー」
「じゃ、そゆことで」
こんな感じでテンションのコントラストも鮮やかな会話ののちに店に入る。奥には座敷もあるのだが、そこにはすでに先客がいた。結果としてパイプの丸椅子に店員の朝飯らしきアルミホイルに包まれたおにぎりの乗った安っぽいテーブルという、あからさまに「ここは店先ですよイカもここでさばいちゃいますよ」な雰囲気が感じられるぞんざいな造りの席に案内される。とりあえず注文はイカ刺定食で。オーダー通しの際に「イカ刺定食1,300円!」と値段まで言ってしまうのはどうかと思わないでもないが、まあわかりやすいのでよしとしよう。
しかし高いな。
店頭の看板を見ると、他にも二色丼やら三色丼やらのメニューがあることがわかる。二色丼はホタテとウニで2,000円。三色丼はそこに甘エビがついて3,000円である。どうやら函館は猛烈なインフレのまっただなかにあるらしい。恐ろしいことです。そんなことを考えているうちに通りかかった男女が夕張メロンの試食をしていたりする。カウンターよろしく壁にぴったりつけられたテーブルの上には白い恋人が立てかけられている。同じ北海道なんだからなにを売ってもいいじゃないか。実におおらか。観光客もここにくれば道内各地のおみやげが揃ってご満悦かもしれぬ。
思ったとおり調理は私の席のすぐ後ろで始まった。店頭の水槽でイカがふよふよと泳いでいるのだが、店員がそこにざんぶと手を突っ込む。網なんて軟弱なものは使いません。当然手づかみであります。それを洗ったのちにまな板の上に乗せると、手際よくまだ生きているイカがさばかれてゆく。ゲソの部分が元気よく動き回る。実にワイルド。
「やー、今日のイカは活きがいいわー」
いったいどうやって判断してるんでしょう。やっぱりどれだけゲソが元気にのたうちまわるかがポイントでしょうか。
そんなわけでイカ刺定食一丁あがりとあいなった。ご飯と鉄砲汁、漬物にイカ刺。シンプル極まりない。しかしイカ刺の量がハンパではない。そりゃ一匹分まるごとなんだからあたりまえだが、このへんはチェーンの居酒屋に見習っていただきたい。
しかしゲソの刺身というのも珍しいね。ついさっきまで生きていたヤツなので、えいやと醤油をかけると当然うにうに動く。まあエビの活け作りのようにびちびちハねたりはしないので、活け作り初心者でも許容範囲でしょう。いつぞやの宴会でエビの活け作りが阿鼻叫喚の巷を惹起したことがあるのだが、これならきっと絶叫天国くらいで済むのではないかと思う。
まあごたくはいいからとっとと食いましょう。
気がつくとイカ刺はすでになくなってしまっていた。やー、これはウマいわ。そこらの真っ白なイカ刺しとは違って、イカの向こうが透けて見える。実際に食べてみてもまるで淀みのない歯ごたえ。ゲソはゲソで、吸盤がゴツゴツするくらい硬くなって歯ごたえが実によろしい。胴とゲソを交互に食いながら食感の違いを楽しむのがよいですな。鉄砲汁もカニのダシがよくきいていて結構でした。
とはいうものの、1,300円という値段は朝食としてはいかがなもんかという気は確かにする。せめて1,000円だったら言うことはなかったのだが、まあ函館はインフレだからしかたがあるまい。ウニやホタテもいいが、活イカは時期が合わなきゃ食えないので、もし機会があればぜひ一度お試しいただけるとよいと思う。
で、JRの時間がせまっていたので金を払ってさっさと退散。午後からは普通に仕事しました。