「OS 対 Web」なのではなく

Tim O'Reillyの論文の日本語訳が出た。エラいぞCNET JAPANはてなブックマークでもすでに350人以上の注目を集めているし、記事に対するTrackbackも30以上。さすがに注目のキーワードですなー。Trackbackを拾い読みしてみるだけでも色んな意見があって面白いけれども、やっぱり一番刺激的なのは本文である。長いけど読み込む価値は充分。
でも全然本筋と関係ないところに反応したいと思います。

プラットフォームは常にアプリケーションを凌駕する

「1. プラットフォームとしてのウェブ」内のコラム。
結論は「Web 2.0時代に成功を収めるのは、PCソフトウェア時代のルールに逆戻りしようとする企業ではなく、新しいゲームのルールを理解している企業である。」で、これは間違いないことだと思う。でもちょっと引っかかるところがあったので脇道にそれる話をすることにする。気になったのは下の文章。

今度の戦いはプラットフォームとアプリケーションではなく、まったく異なるビジネスモデルを持ったプラットフォーム同士の間で行われている。

これは多分OSとWebを指しているのだと思うのだけど、だとするとこの言い方には少し違和感がある。なぜならOSなくしてWebは存在しえないからだ。そのOSを食いつぶしてしまうような戦いを、一体誰が仕掛けるってんだ?GoogleMicrosoftが正面切って法廷闘争なんかしないのはそういう理由によるものだろう*1
私はWebというのはOSの上位概念だといえるのかなあ、と思っている。だってほら、今だってブラウザさえあれば、どんなOSでも同じWebサイトが見られるじゃないですか。大体PCじゃなくたって、PDAでも携帯電話でも、見ているものは同じ「Web」だ。
そう考えてみると、Webという上位概念はその下位にあるOSの差異を吸収してしまうものだ、ということになる。あー、これってPC-98DOS/Vの間に起こった争いに似てるなあ。今自分が使っているPCの機種を気にする人がほとんどいないように、近いうちに自分の使っているOSがなんなのかを気にする人もいなくなっていくんじゃないだろうか。今は「PCなんてSONYでもNECでも富士通でも大して変わんないよ」というご時世である。その次にやってくるは「OSなんてWindowsでもMac OSでもLinuxでも大して変わんないよ」という時代なんじゃなかろうか。
とすると、この「プラットフォーム同士の戦い」というのは少し違うのかも、と思う。IT業界において今起きているのは「WebというプラットフォームがOSというプラットフォームを飲み込もうとしている」ということなんじゃないだろうか?そういう見方をしてみると、現在行われているのはWebという新しいプラットフォームにおける覇権争いであって、WebとOSというプラットフォーム間の争いではないことになる。*2
つーか今までのソフトウェアビジネスに変わってWebサービスがITビジネスの主流になるだろうってこと、実はもうみんな気づいてるんじゃないの?だってここまで普及しちゃったWebが今更消えてなくなるわけないじゃん。Amazonの便利さを知っておきながら、今更それがない世界に戻りたいと思わないですし。で、そういう新しい時代に対応するためのスキームだかミームだかとしてのWeb2.0なんでしょ?そしてそれがこの記事における「新しいルール」であって、本文にそれが書いてあるんだからおめーらコラムなんか読んでないでとっとと本文に戻れ、というのがTim O'Reillyのメッセージなのでは?
とするとそのコラムの、しかも枝葉末節に対してぐちぐち書いている私は一体!
あーあ。
……気を取り直してもう少し話を続ける。プラットフォームの主流がOSからWebへと移るにせよ、もちろんスイッチが切り替わるようにして急に世界が変わるわけではない。もうしばらくはLinuxWindowsみたいな話にも十分な話題性があり続けるだろうし、オープンとプロプライエタリという別の観点もあるからそれはそれでとてもホットだと思う。
でも「OSの時代」はもうそれほど長くはない。もちろんWebの時代にいたるまでは様々な紆余曲折もあるだろうし、一筋縄ではいかない部分もあるだろう*3。けれどももうWebの時代が来ることは避けようがないと私は考えるし、それを見越した上でキャッチアップしていきたいと考えるのであれば、新しい時代においてキーとなるであろうWeb2.0という概念をしっかり理解しておいた方がいいのではないだろうか。そう考える。
だからそろそろ本文読むのに戻りますよ!

*1:そういった意味において、Netscapeがあの訴訟で最終的になにを目指していたのかはいまだによくわからない。Microsoftを分割して、そのあとはどうするつもりだったのか?そこでWeb2.0のようなまったく新しい概念を提唱することができなかったことが、Netscapeが本当の意味で勝利することのできなかった理由なのかもしれない。

*2:これはOS時代の覇者であるMicrosoftの振る舞いを見てるとなんとなくわかるような気がする。つい先日「ビル・ゲイツ:「ソフトウェアは『ライブの時代』に」--MSがオンラインサービス発表」なんて話が出たばかりだけれども、いよいよMicrosoftもWeb時代に向けてその覇権を奪取すべく舵を切ったのかなあ。もちろん今までだってMSNだのがあったわけだけれども、これは正直目新しさのない時代にきっちりついていくための存在だったように見える。今回の「Windows Live」はいよいよWebの世界にキラーアプリを投入する覚悟を決めたモノなんじゃないだろうか。

*3:大体いまだに「ワープロ専用機が懐かしいなあ」なんて言ってるおじさん達がそんなに華麗なる変身を遂げることができるとも思えませんし