ローマ人の物語1〜ローマは一日にして成らず〜(塩野七生/新潮社)

日本人ならギボンよりも塩野七生でしょう__というのは正解のようでいてどこかが間違っているような気がする。日本人なら世界史よりも日本史でしょう__ごもっともです。文庫ではなくあえてハードカバーを買ってみたので勘弁してください。
それはさておき、まだ読み始めたばかりなので知っている名前はひとつも出てこない。建国の王ロムルス、とか言われてもまるでピンと来ない。不明を恥じるべきなのか、それとも知らなくても仕方がないことなのかさえわからない。なにやら不安である。
ちなみに2巻がハンニバル戦記、4〜5巻がユリウス・カエサルになっているようだ。五賢帝はどうやら9巻あたりらしいというのだから先は長い。そしてオビを見ると、このシリーズは1年に1冊ペースで1992年から2006年までかけて刊行されていくそうな。
知らなかった。まだ完結していなかったなんて。
著者は1937年生まれというから今年で67歳。果てして無事に完結できるのだろうかなどと不謹慎な考えがアタマをよぎる中読み進めていくことになった。

ローマ的社会と『宇宙の戦士』的社会

なんだかんだいいつつ、1巻さえまだ読み終えていないのだから大したことはない話である。けれども途中でひとつ、ちょっと面白い記述に出会ったのでそれを書きとめておくことにする。

__国民の義務は税金を払うことである。もう一つの義務は、国を守ることである。古代ではローマにかぎらずギリシアでも、直接税は軍役を努めることで支払うのが普通だった。それをしてこそ、一人前の市民と認められた。一人前の市民ならば、当然権利をもつ。市民の権利は、投票権である。それゆえに、軍制は税制にイコールし、選挙制にもイコールするという図式が成り立つのだった。(ローマ人の物語1〜ローマは一日にして成らず〜 P62)

そこまで単純に言い切っていいのだろうかという気もしないではないが、ここで思い出したのはハインラインの『宇宙の戦士』である。これまた古い本だ(1979年)。ハヤカワ文庫で読むと、巻末にこの作品について繰り広げられた当時のアツい議論が収録されていて、得したんだか損してるんだかわからない気分になる本でもある。
その議論の火種になったのが、『選挙権が退役軍人にのみ与えられる』という設定だったのだが、今回その元ネタが古代社会における社会制度にあったのかーということに初めて気付いた次第という話。初めて『宇宙の戦士』を読んだときにはなんつー設定を考えるおヒトなのかと思ったものなのだが、そうかー、こういうトリックだったのですか。
ちなみに『宇宙の戦士』作中には、普通選挙制度を否定するような記述があったりもする。刊行当時、平和主義を(今よりは)素朴に信奉していた日本人の逆鱗に、そのあたりは見事に触れたらしい。『ハインラインファシスト』とまで言われていたりする。
えーとアレですか。そこまでアツくなってしまうってことは、当時の方々は古代においてこういう社会が形勢されていたことをご存知なかったのでしょうか。確かにSF読む人がローマ帝国に興味を持つかどうかは微妙なところかもしれないけど。それとも『古代人はみんなファシスト』なんてビックリ発言カマしちゃうんだろうか。うーん、うーん。
まあ、今さらこんな他人の墓を暴くようなマネをしても詮方ない。きっと今ならこういう過剰な反応はなくなってるんだろうなあ__と思いつつAmazonの書評をちらっと読んでみたら__あまり変わらない意見もあったりしてなんともはやな気分になってしまった。そうかと思えばローマの社会制度との関連について書いてある書評もあったりして、実にバラエティに富んでいる。ぬぬぅ。30年近くをかけて日本人が得たものってのは、おそらくこの多様性なのだろうなあ__とか無理矢理しみじみしておくか。
という感じで、『ローマ人の物語』の話なんだか『宇宙の戦士』の話をしてるんだかわからなくなってしまった。これ以上引っ張ってもロクなことはなさそうなので、今回はこれでおしまい。それでは皆様ごきげんよう
ちなみに次回があるかどうかは知らん。