はてなブックマーク私感

コメントの付け方やSocial Bookmark Optimization(SBO)など、はてなブックマークに関する話題はなかなか尽きることがないようです。そこを入り口として「どうしてはてなブックマークが面白いと思うのか」について考えてみたんですが、それはどうもはてなブックマークの持つ「マスの傾向を比較的手軽に調査できるツール」としての性質にあるのではないかと思うに至りました。そこからさらに話を進めると「マーケティングツールとしてのはてなブックマーク」という観点、そのように見た場合に考えられる今後の動向__というように妄想が膨らんでいったので、それについても書いてみます。

新しいモノはその存在自体がエンターテインメントである

はてなブックマークについての話題はコメントの付け方(罵倒的コメントやネガティブブックマークの是非、そもそもBlogにはコメント欄があるんだからそこに書くべきじゃないか)や、どうすればはてなブックマークに取り上げられるような記事が書けるのか、といったSocial Bookmark Optimization(SBO)についてなど、尽きるところを知らないようです。
ただ、個人的にはあんまりモノを言う気にならないなあ、と思ってました。なぜなんでしょう。
2〜3年前にBlogが日本で普及し始めたころに、Trackbackの打ち方を中心にして議論が巻き起こったことがありました(お返しTrackback儀礼的無関心など)。遠巻きにその様子を眺めつつ、稚拙な文章をWeb上にあげたことが恥ずべき記憶として残っています。眺めていた中には丁々発止のやりとりもあったりしまして、これがWebの醍醐味かも!と面白がったことを覚えています。
ただ、それを踏まえた上で見てみると、昨今のはてなブックマークを代表例とするソーシャルブックマークサービス(SBS)における種々の議論も、結局のところはBlogのときの議論の繰り返しに見えるんですね。
メタ的な議論ってのはたとえは悪いですが寄生虫のようなもので、その存在自体サービスという宿主があってこそです。それで宿主がダメになってしまうことはまずありません。というように考えてみると、どれだけ盛り上がったところで、結局は落ち着くところに落ち着くんだろうなあ。それならわざわざなにか言う必要もないなあ、というところに落ち着いてしまうんですね。まあ、そもそも私の話を聞いてる人ってあんまりいないんだと思いますけど。
とは言っても、新しいモノが出てくるたびに「〜とはなんぞや」「〜はどうあるべきか」というメタ的な話題が盛り上がることそれ自体は健全なことだと思います。そのことを考えたときに思い出すのが「新しいモノってのはその存在自体がエンターテインメントなんだ」って言葉ですね。これは私が昔愛読していたWebサイトにあった言葉で、それを初めて読んだときは深くなるほどと思ったものです。先にあげたBlogもそうでしたし、かつてはインターネットやWWWもそうだった時期があります。TVや映画やラジオ、新聞なんかもそうだったのに違いありません。「新聞なんかのどこがいいってんだ。俺には瓦版で充分だ」とか言う人がきっといたんじゃないかと想像してみるのも、それはそれで面白い。
ここ最近では「新しいモノ」が出てくる周期がどんどん短くなっているようには思いますが、それにしたところで話題の中心となるユーザーは変わりますし、そこで巻き起こるメタ的な議論を経て初めて見えてくるものや理解できることもあるでしょう。私もBlogに関する議論に触れていなければこういう考え方をするようにはならなかったんだと思います。だからこれからも同じような話題は尽きることなく繰り返されていくんでしょうし、それに関してはただそういうものなんだ、としか私は思いません。むしろせっかくなんだから思う存分やって頂ければいいと思う。ただ自分がそこに積極的に関わるのはもう飽きちゃった、ってことなんでしょうね。

なぜはてなブックマークが面白いのか

それはそれとして、やっぱりはてなブックマークって面白いよなあ、と思っているのもまた事実です。メタ的な議論には飽きちゃったはずなのに、どうしてなんでしょう。そのことについては「はてなブックマークの傾向」という記事を書いて依頼、しばらく考え続けていました。まだきっちりまとまってはいませんが、今度はそのことについて書いてみようと思います。
考える過程で漠然と感じたのは「個々人は自由に行動しているのに、全体として見るとそこに明らかな規則性がある」ってあたりが核心なのかなあ、ということでした。100件やら1000件やらのデータを集めてみたのが例のエントリだったわけなので、それをきっかけにしてたどり着く結論としてはそんなに無理がないように思えます。
もっともこのような考え方自体は、経済学などのマクロな視点を必要とする分野ではおそらく当たり前の前提なんだと思います。ただ、それが端的に目に見えるモノとして現れるところが、私がはてなブックマークを面白いと感じる理由なんじゃないか。そう考えたわけです。
ここでのポイントはおそらく「端的に目に見えるモノ」というところでしょう。ネットでの傾向という話であれば、たとえばBlogを広く読み込むことによって掴むことが既に可能だったはずです。はてなブックマークはそこにブックマーク数という非常にわかりやすい指標を与えた。そこがキモなのではないか。
我田引水な話ですが、そのひとつのあらわれが「はてなブックマークの傾向(2)」というエントリだったんだと思います。そこで「タグ」の分布について調べてみたところ、はてなブックマークがマスとしての傾向を示していることがある程度わかりました。いわゆる「ロングテール」の概念ですが、そのように経済学の概念を引っ張ってこれたのは、経済学という学問がそもそもマスの動向を予測することに重きを置いているからではないかと思います。であればこそマスの動向に注視した際に当てはまる語句を容易に見つけることができたんじゃないでしょうか。この場合はそれがたまたま「ロングテール」という流行りの言葉であったわけです。
もちろん最初からそんな難しいことを考えて調べていたなんてことはありません。ぶっちゃけ単なる興味本位で調べ始めたにすぎなかったわけです。その調べる過程でも色々ああでもないこうでもないというところがあって、これはこれで随分面白かったのもまた事実ですし。
ただ、その結果としてロングテールという概念を引っ張ってこれたあたりがやっぱり一番楽しかったんですよね。作成されたグラフを見ながら「ロングテールっぽい!本当に長いよあはははは!」とか思ってました。それぞれがまったく異なるところを目指している分野の間を、ある共通の概念で結びつけて考えることができるようになるというのはやっぱり面白いなあ__うまくまとまっているかどうかは自身がないですが、そういうことなんじゃないでしょうか。
そういう経験を通じて、全体のトレンドを見るためのデータを提供してくれるはてなブックマークは凄いツールだと感じましたし、それを使ってどういう分析ができるだろう、と考えるのは面白いよなあと思います。これが現時点での「なぜはてなブックマークが面白いのか」に対する私なりの答えということになりそうです。

マーケティングツールとしてのはてなブックマーク

というわけで私がなんではてなブックマークを面白いと思っているのかについては一応わかりました。ただ、そこから発展するとはてなブックマークはもっとすごいツールになりうるんじゃないかと考えたので、最後にそれについて少し書いてみます。
対象が技術指向に強い人に偏っているとはいえ、はてなブックマークは既にその分野内におけるトレンドを見るのに非常に有効なツールになっていると思います。なにせちょっと簡単なスクリプトを書くだけで、最近の技術トレンドとしてAjaxWeb2.0というキーワードが存在しているということを数値化して示すことができるわけですから。
漠然としていた「傾向」にユーザー数という目に見える数字を用いて数値化してやることによって、説得力が随分増だろうというのは想像に難くありません。では、そうやって得た「説得力」をどのように使うのか__ストレートな発想としてはマーケティングツールとしての活用がまず思い浮かびます。「Ajaxという単語が流行ってるんです」というのと「Ajaxという単語を含む記事を○○○人のユーザーが注目しています」と言うのでは、与える印象が自ずと異なるでしょう。
そのような観点ではてなブックマークを見てみると、全体の動向を掴みつつコメント欄によって個々のエントリに対してどのような色づけがなされているのかまで把握することができ、さらにはリンクをたどって個人のBlogにまでたどり着くことができるという、実にパワフルな情報収集ツールに写るのではないでしょうか。あくまでも素人考えではありますが、それほど大ハズレでもないんじゃないかと思うのですが。
ただしその説得力というのも信頼性のある母集団があってこそ初めて成り立つものです。そうしてみると現状のはてなブックマークでは、せいぜいコンピュータ業界のさらに一部における技術トレンドを追いかける程度のものでしかないのかもしれません。しかしながらその潜在能力はある程度うかがえることもまた確かで、そこに信頼性のある母集団を与えることができればどうなるでしょう?そしてそれはある程度のユーザー数を確保することによって獲得されうるものだとすれば?
そう考えてみると、どこぞのリサーチ会社あたりが怒濤のPR作戦でSBSの普及に乗り出してくる可能性もあるかもなあ……などと妄想が膨らみます。ユーザーがいないなら連れてくればいい、というわけですね。まあそんなことをしたところでどれだけ人が集まるのかはわからないですが、妄想するだけなら許されるでしょう。一般紙にはてなブックマークが妙に取り上げられるようになったら要注意です。
あと、「はてな総研」とかも面白いかも。